
★ 前編 ★
「なんだぁ?」
「・・・なんだろうねぇ」
久々に訪れた、イーストシティ。
一先ず報告かな、と東方司令部に足を向けたは良いが、建物が見えて来て、門が見えて来て、と言う所でいつもと違う様子に気付いた。
普段は無機質な、それこそ”要塞”と言った感じの強い壮観なのに、妙に派手な装飾がされている。
それだけならまだしも、門番の様子もおかしい。
そして、”軍”と言う特殊な場所柄か、一般市民は余り近付かないが、今日は付近にちらほら子供の姿が見える。
どの子供達も、少し変わった格好をしている。
「あ、あれだよ! 兄さん」
「なに?」
何かに気付いたらしいアルフォンスに聞き返しながら、門に辿り着く。
近くで見ると、門番はマントと手にカボチャを持っていた。
「ハロウィンだよ!」
「あー」
そうか、そう言えばそんな時期か、と周りを見て思い出す。
小さい頃はアルフォンスやウィンリィや友達と共に近所を回ってお菓子ねだったっけ、とそうは遠く無い筈の記憶を懐かしむ。
少しはしゃいだ様子のアルフォンスが嬉しそうに門番に声を掛けた。
「こんにちは。今日はハロウィンのイベントでもやっているんですか?」
「これは、鋼の錬金術師殿と弟殿。お疲れ様であります」
「そうですね、毎年軍でもこうやって装飾をして子供達にお菓子を配ったりしていますね」
新卒らしい門番が挨拶し、顔なじみの門番が説明をしてくれる。
「毎年? 毎年やってたっけ?」
「正確にはマスタング大佐が就かれてからですね」
「そうなの?」
「大佐はイベントお好きですからね。でも敬遠されがちな軍が市民と交流出来るので良い機会ですよ」
苦笑しつつ、それでもにこやかに応える門番。
確かに、イベント大好きな大佐他、彼の部下達なら考えそうな事だ。
市井に嫌われがちの軍が、イーストシティでは結構好意的であるのは、そういった所に拠るものなのだろう。サボりと称して市内をうろついては市民と喋っているのも、そういう狙いがあるのかもしれない。・・・あの男の事だから狙ってはいるだろうけれど、大方は趣味に違いないが。
「そういえばこの時期に来た事なかったな」
「そういえばそうだね」
ロイが就いてから、と言うなら、少なくとも3年は自分も見る機会があったろうに、無いと言う事はそう言う事だろう。
「あ、良かったらどうぞ」
門番が子供達に配っているだろう、キャンディを手渡してくれた。
「あ、ども」
「わぁ、ありがとうございます!」
完全に善意から来ているので、エドワードは素直に受け取った。
何より弟が嬉しそうだ。
それを見つつ、敷地内に進む。
「よっ!大将!アル!」
受付を通った所で後ろから肩を叩かれた。
「いってーな! ハボック少尉!」
声からしてハボックと判別し、振り返ると。
「・・・何それ?」
「なんだよ、見てわかんねぇのかよ」
「えーと? 狼男ですか?」
挨拶もそこそこにアルフォンスが答える。
「お、ご名答〜」
ハボックは狼男の着ぐるみを着ていた。
「司令部の中までこんなんなのかよ。大丈夫か?」
「兄さん・・・」
よくよく見ると、司令部の中では色んな格好をした人が歩いている。
確かに防犯は気になる。
「今日はまぁ特別だな。確実に警備に当たる奴はしてねぇけど、今日内勤の奴とかは事務の奴とかは任意なんだ。因にオレは、軍で廻ってる児童施設に行くんでな。」
「へぇ」
「楽しそうですね」
「あら、じゃあアルフォンス君もやる?」
後ろから声が掛かった。
「中尉!」
麗しの美人中尉も何か仮装をしているのだろうか、と期待しつつ振り返ると、いつも通りの毅然とした姿があった。
「中尉は仮装しないんですか?」
若干ガッカリしながらアルフォンスが尋ねる。
「しても良いんだけれど、私は一応大佐の護衛をしているから・・・」
苦笑まじりに言われ、まぁ確かに、と納得した。
「・・・何より、サボった時に追いかけられないわ」
幾分冷気を放ちながら言う様に、確かに!と3人は引きつりながらコクコクと頷いた。
「そうそう、折角だから二人もしたら? 何でか衣装は沢山あるの」
「そうなんですか?」
「毎年、衣装替えする人も居てね。前に使ったものを貸し出ししていたりするのよ」
「そうそう。オレのもそっから漁った奴だぜー」
ハボックが狼頭で言う。
「兄さん・・・」
「・・・わぁったよ。やりたいんだろ?」
「うん!」
さっきからアルフォンスが興味津々に聞いている様子に、仕方ないな、と苦笑する。弟を年相応に扱ってくれる場所なんてそうそう無いから、エドワードとしても嬉しい。
「エドワード君もいらっしゃい」
「え? オレは良いよ」
こっちよ、とホークアイに促されたが、辞退を申し出る。
「なんだよ、やってこいよー。それに今日は皆結構お菓子持ってっから、貰ってこいよ」
「お菓子・・・。って、子供扱いすんな!」
一瞬、甘党な為、惹かれかけたが、我に返る。
「子供のうちは子供の特権思いっきり使ってこいよ。科学者は合理主義だろー?」
エドワードの性格を踏まえた上で、ハボックが誘う。
「私もクッキーを焼いているのよ。良かったら後で取りに来て?」
ホークアイにまでそんな事を言われたら、断る術がない。
皆、この兄弟に年相応の事をさせてやりたいと思っているのだ。
「じゃあ・・・」
諾、と応えたエドワードも連れ、衣装部屋に向かった。