
※未来捏造です。
「はぁ、さむっ・・・」
学校帰りの夜道。エドワードは白い息を吐きながら家路に付いていた。
全てを取り戻した後。
昨年大学をスキップで卒業し、現在そのまま引き止められるように大学研究室で教授の助手をしている。
アルフォンスはリハビリ後に昨年大学に入学し医学を学んでいる。
「アルは学生寮のパーティーだよな。夕飯どうすっかな・・・」
お互い研究と勉学とで殆ど泊り込みのような状態になっているが、今日は師事している教授が娘と約束したとの事でいつもより早めにお開きになった。と言っても、”いつも”が深夜なので現在20時だ。
夕方、予約していたケーキを取りに行った教授が持っていた箱は2つ。
「君達にも」と、弟の分と含めホールケーキを頂いてしまった。
「冷蔵庫に入れておきゃ明日でも大丈夫かな」
手に提げた箱に視線をやって「多分朝まで騒ぐと思う」と朝出かけて行く際にそんな事を言った弟の顔は呆れたような嬉しそうな顔をしていた。
「チキン・・・ってもう肉屋は閉まった頃か」
丁度店じまいの時刻だ。
それに一人でチキンも虚しいか、と、結局は商店街を通らずに真っ直ぐ家に向かった。
「パンはあるし、野菜はあったから・・・スープ作って、サラダ・・・うーん、寒いからポトフにしようかな・・・」
ブツブツ呟きながらアパートの近くの角を曲がると、どこの家からかの料理か香ばしい匂いがした。
「チキンの匂いがする・・・やっぱ遠回りして買いに行くべきだったか?」
少し離れたデリだったら出来合いのものが売っていただろう。
「って、今言っても・・・?」
アパートの扉を潜り中央の螺旋階段を上ると、その階には自分たち兄弟しか住んでいないフロアに人影があった。
「や」
「・・・・・・・・・・・・は?」
「は?は無いだろう。鋼の」
一瞬意味が分からなくて間抜けな声を出したら、すかさず相手から憮然とした声が掛かる。
「っつか、何でアンタがこんな所いんだよ」
目の前にいる男。
嘗ての上司、現在国家の代表と言っても過言ではない男、ロイ・マスタングだ。
「そんなもの決まっている。君を訪ねて来たからだ」
当たり前のように言い放つが、何の約束も勿論していないし、そもそもこんな風に家を訪ね合うような間柄でもない。
「決まってるって、意味わかんね。大体護衛は・・・」
「それより寒いんだ。入れてくれないか?」
「はぁ?!」
言いかけた所で、男の鼻が寒さで微かに赤い事に気付いた。
「っ、ったくもう!」
男を押しやって自宅の鍵を開けた。
「何もないな」
「悪かったな。そもそも客を呼ぶ予定がねぇ」
「アルフォンスはどうした」
「アルは大学の学生寮パーティーに呼ばれたんだ」
仕方なく、暖炉に火を入れた後、薬缶に火をかけお茶を入れる準備をする。
「何だ。折角チキンを沢山買って来たのに、余ってしまうな」
「は?」
ガサリと音がして振り返ると、手に持っていた紙袋から香ばしい匂いを洩らす油紙袋を掲げた。
「その匂い、アンタのだったのか」
階下の住人の家からかと思っていたら、出所はこの男だったらしい。
「っつーか、何でそんなの持ってんだよ」
「知らないのか、今日はクリスマスだ」
「知ってるよ! そうじゃなくて! 何でアンタがそんなの持ってウチに来てるのかって事だ!」
沸いたお湯でコーヒーを淹れ、乱暴に机に置く。
「ありがとう」
「どういたしまして。じゃなくて!」
「うん? 帰っても一人でつまらないからな。だったら君たちと食事でもと思って」
「一人身の寂しさに俺たちを巻き込むんじゃねー!」
サラリと勝手に予定を立てられていて、突っ込む。
「良いじゃないか。君と私の仲だ」
「どんな仲だよ!」
「・・・どんな仲だろうねぇ」
のほほんと言った台詞に返すと、ロイは一瞬間を置いて笑った。
「あぁ、そうだ。これも」
「ワイン?!とシャンパン? おいおい、俺ら未成年だっつーの!」
ゴソゴソと出したもう1つの包みは、酒だった。
「来年二十歳だろう? 少し早いが良いじゃないか」
「国家の統率者がサラッと法律破ってんじゃねぇよ」
ハッハッハと笑う男にツッコミ、一応はボトルを冷やすべく受け取る。こんだけ居座っているようじゃ帰れと言っても帰らないだろうし、どうせコイツは呑むだろう、と長い付き合いから来る予想の元キッチンに向かう。
「そうだ、ポトフがどうとか言っていたな」
「何聞いてんだよ。地獄耳」
一体いつからこちらの様子を伺っていたと言うのだ。
「いや、楽しみだ」
「食わせるなんて言ってねー」
「いや、楽しみだ」
「聞けよ!」
すっかり寛ぐ体で、ソファにゆったり座って、優しい目で見上げて来た。
「・・・・・・・・・・・・・食ったらさっさと帰れよ!」
畜生、と思いながら、野菜箱からたまねぎを取り出した。
ロイが持って来たチキンと、作った野菜たっぷりのポトフ。朝食用に買いためていたバケットを軽く温めて。
白ワインを入れたグラスと、アルコール度数がこちらの方が低いと言う事で甘く軽めのシャンパンを少しだけ入れたグラスで一応の乾杯を取った。
ささやかなクリスマスパーティー。
「美味いな」
「当然」
ポトフを心なしか嬉しそうに掬った男は舌鼓を打った。
「これならいつでも嫁に行けるな」
「誰が嫁だ!」
オレは男だ!と失礼極まりない男のスープ皿を取り上げると、「悪かった」と情けない顔になった。
「・・・アンタ、連絡もなしにここに来て、オレも学校でパーティーだったらどうする訳?」
家に入って、スリッパを渡す時にに少しだけ触れた彼の手は冷たかった。
「うん? いや、アルフォンスはともかく、君なら居るだろうと思ってね」
一口、ワインを飲んだロイがゆったりした口調で言った。
「何でオレなら居ると思ったんだ」
アルは別、と少しばかり答えが気に入らなくて、突っ掛かる。
「・・・多分、引く手数多に誘われるだろうけれど、きっと君は辞退してゆっくり家で過ごすと思ったからね」
もう一口、ワインを飲んだロイがグラスを置いて、頬杖を付いて見てきた。
「何で」
「華やかな席は遠慮するだろう、君は昔から」
「・・・」
何故分かるのだろう。
確かに教授や同僚の自宅、果ては学生たちにまで誘われたが、全て丁重に辞退した。
幸せで楽しいに違いない場所ではあるが、どうも気後れしてしまうのだ。
「・・・そう言うアンタこそ、パーティーとかあったんじゃねぇの?」
国家の統率者であるから仕事がらみのパーティーは多いだろうし、この容姿だ。
昔から女性達からの誘いは多い。
何故、ここに居るんだろう。
改めて考えると不思議な現在状況。
ロイ・マスタングと自宅で食卓を囲んでいるなんて。
胡乱気に見ると、ロイは少し困ったような顔をした。
「・・・誘いはあったけれどね。君と同じく辞退したよ」
「はぁ? そんな事出来る立場じゃないだろ?」
自分と違って軽く断る、など出来ない地位だ。その一つ一つが大切な人脈確保で仕事だろう。
「理想の国」
「え?」
「・・・軍や軍人が介入しなくても過ごせる、幸せで平和な世界」
静かにロイが言った。
「だから、こんな日位、一家団欒や友達や恋人、大切な人と過ごすべきだとは思わないかい?」
そしてポトフを掬う。
「美味しいね」
君は料理上手だな、と楽しげに言う。
「っ・・・・・・そりゃどうも」
少しだけ顔が赤くなった気がしたが、何食わぬ顔で自分もポトフを掬った。
「・・・通じない、か」
「え?」
「いや」
ロイが少し苦笑して意味不明な言葉を呟いたが、聞き返すと何でもない、と首を振られた。
結局長居した男は深夜にやっと帰り支度をした。
「・・・アンタ明日仕事中に居眠りすんなよ?」
「心配してくれるのかね?」
「アンタの心配と違います。振り回される中尉や少尉が可哀想って言う心配」
もう階級はそれでは無いけれど、昔からの呼び方が定着してしまっているホークアイとハボック達を心配しているのだと告げる。
「つれないな」
「当たり前。っつーか、アンタ本当何しに来たんだ」
この男が食事だけが目的で訪れる訳が無いと何回か言葉を変えて探ったが、男は最後まで訪問の真の意味を教えなかった。
・・・本当に、ひょっこり思いつきで来ただけだろうか。
「・・・そんなに聞きたいかね?」
少し妙な間があった後、こちらが探りを入れていた事に気付いていた言葉を返す。
性質悪い。
「今度ここに来る理由を排除したいんで」
ニッコリと青筋を立てながらこちらが笑うと
「だから平和な日を実感しに?」
ロイもニコリと笑った。
「・・・アァソウ」
やっぱり言いそうにない性質悪い男に、仕方なく諦める。
玄関でブーツを掃きなおして振り返った男がジッと見て来た。
「何」
「・・・平和な日を実感しに、だよ」
「あぁはいはい」
また同じ言葉を言う男に、ガシガシと頭を掻いて適当に流す。どうせ言う気がない癖に。
「こんな日位、一家団欒や友達や恋人、大切な人と過ごすべきだと思わないかと言ったと思うが」
「あぁ、そんな事言ってたな」
「今日、こうして過ごしたが君と私は家族ではない」
「ソウデスネ」
「友達かな?」
「ドウデショウ」
友達と言うと、そんな気がしないでもないが、またちょっと違うとは思う。
もう少し言うなら同士?。・・・嘗ての。と言う気がするなとエドワードはこちらを見てくる男に、そういや後見も外れた今の関係とは何だろう、と思った。
「・・・とすると、残るは恋人」
「はぁ? それは無いだろ!」
家族・友達以上にありえない関係だ。
「そうだな。でも」
グイと引き寄せられる。
「―――恋人になりたい、なって欲しいと思っている、現在時点、君は私にとって大切な人なんだ」
「―――――――――え?」
恋人・・・?
「だから、ここに来た」
大切な、人?
「・・・・・・・・・君が、好きなんだ」
耳元で囁いて―――。
「!」
「じゃあ、ご馳走様。またご馳走してくれると嬉しいな」
ヒラリと手を振って、ロイは去って行った。
「・・・・・・・・・ご馳走、ってどういう意味だ」
口許を手の甲で押さえてエドワードはへたり込んだ。
誰も居なくなった部屋、暖かな暖炉の空気と2人分のグラス。
そして唇には彼がここに居たという証拠のように温もりが残っていた。
2009/12/23