1.おはよう


「おら、起きろ!」
「・・・?」

シャ、と言うカーテンを開く音と共に視界が明るくなった。
夜勤明けの目には染みる。

「・・・??」
「起きろっつーの!無能!」
「ぐっ・・・!」
状況が良く飲み込めないまま、シーツで光を遮ろうと顔まで布を手繰り寄せたら、腹の上に衝撃が加わった。
「・・・鋼の」
「おう」
ダイビング(肘鉄付き)してきた豆台風は、何事も無かったかのように、普段はしてこない爽やかな顔で返事をしてきた。
瞼を抉じ開けると、眩しい黄金。
「・・・・・・・・君は朝っぱらから何をしているんだね?」
「大佐を起こしに?」
何を言っているんだ?というようにキョトリ、と首を傾げる。
仕草は可愛いが、起こし方は可愛くない。
「と言うか、いつ帰ってきたのかね?」
「昨日?」
昨日。
昨日か。
会ってないぞ、夜勤だったのに。
「・・・私が眠りに付いたのが何時か知っているかね?」
「知らねー」
「・・・2時間前なんだが」
「へぇ。お疲れ。っつーか、さっさと起きろよ!」
胸倉を掴まれて、ユサユサと叩き起こされる。
ユラリ、とゆっくり上半身を起こすと、彼は良く出来ました、と言うように
「起きた?」
下から覗きこまれて笑われた。
・・・可愛いじゃないか。くそう。
「・・・で? 何か用かね?」
可愛さに負けて、口許に手を押さえたまま彼の用件を聞く。
「今日の夜の便で南に発つからさ。紹介状書いて貰おうと思ったら、アンタ夕方から出勤とか中尉が言うからさー。っつー訳で書け」
「・・・おい」
アッサリと言われ。
それだけで普段どんなに誘っても近寄りもしない自宅まで押しかけ、朝から起こしたのか、とガクリ、と項垂れる。
もう少し、他に、出かける前に顔が見たかった、とかあっても良いんじゃないのか?
項垂れついでに枕に出戻った。
「ちょっ! おい! 寝るなよ! サーイーン!」
ベッドに突っ伏した身体に再び圧し掛かり肩をゆすられる。
「私は眠い」
「寝る前に! サイン!」
「では・・・等価交換」
「へ?っわゎっ!」
ガクガク揺らして来る手を掴み、シーツに引っ張り込んだ。
「ちょっ! 何すんだ! 放せっ!」
後ろから羽交い絞めにして抱き込むと、焦ったように暴れ出すエドワード。
「夜の出発なのだろう? だったら未だ時間はあるだろう。私の抱き枕になるならサインでも何でもしてやろう」
「なっ! 冗談! ってか、はーなーせーーーー!」
「あぁ、うるさい」
「んんっ!」
ギャンギャン騒ぐ子供を腕の中で反転させて、唇を塞ぐ。
「んーーーーーっ!」
思いっきり手を突っぱねられるが難なく交わし、ベッドに沈めて覆いかぶさるように抱き込んだ。
「ん・・・ふ・・・」
大人しくなった所で、ちゅ、と小さく音を立てて唇を離すと、ふ、と息を吐く子供の顔が目に入った。
これ以上はマズイな。
こんな朝で、他に誰も居なくて、場所が自宅のベッド、腕の中には滅多に会えない可愛い恋人、と言うシチュエーションは
ちょっとそろそろ自制が危うい。
キスは何度かしているが、身体の関係は未だないのだ。
勿論彼がその気になってくれれば、寝不足なんて何のその。このまま・・・。
「鋼の・・・」
試しに至近距離で囁くと、顔を真っ赤にして涙目になった蜂蜜の双眸が睨み返す。
あ、良いなその顔・・・。
「〜〜〜何すっだ、テメェーーー!」
「ぐはっ!」
思ったのも束の間。ゴッ、と左足で脛を蹴られ、痛みに呻いていると、そそくさと子供はベッドから逃げ出した。
「ふざけてねぇで、とっとと起きて下降りて来い!」
真っ赤な顔のまま肩で大きく息をし、ドスドスと足音荒く階段を下りていった。


「・・・何なんだ・・・」

いきなり「サインくれ」の一言で朝っぱらからやってきた恋人。
キスを嫌がる(照れているだけだと思いたい)と言う事は本当にただサインだけの為だけに来ただろう子供に、少なからず
ショックを受け。
「・・・ま、顔を出してくれただけでも良しとするのか・・・」
紹介状の必要がなければ、そのまま顔も出さずに旅に出そうだった恋人に、夕方司令部に来れば良いのに家まで来てくれた
、と思いこむ事で納得しよう、と、ならせめて彼が居る間は寝ていては勿体無いと思い今度こそ起き上がる。

「?」
ドアに近づくと微かに香る匂い。
「―――これは」
クス、と笑いながら階下に向かう。

顔を洗い、キッチンに向かう。
器用にフライパンからフンワリとしたオムレツを皿に移した少年に、気配を消してそっと近づいた。
「鋼の」
「うわぁ!」
「おはよう」
小柄な少年を後ろから抱き締めて。
耳元で囁くと、少し赤い頬が振り返る。
「・・・やっと起きたかよ」
「うん。起きた」
こめかみに口付けると、今度は抵抗が無かった。
「おはよう、・・・エド」
腕の中で身体を反転させて、ゆっくりと口付けを落とすと。
「・・・はよ」
照れたように、朝に開く花のように、笑った彼に。
「・・・食べたいな」
ポツリ、と言うと。
「へ? あぁ、もう少しでパンが・・・」
「そうじゃなくて・・・いや、朝食楽しみだな」
スリ、と頭の天辺に頬を寄せると、はにかんだ気配。


夕方司令部に来れば良いのに家に来てくれた子供の気持ちに大満足して。
再び少年を囲む腕に力を入れた。

 

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08/08/08日記より。加筆修正。
おはおはおは記念(笑)。

2009.02.01