15.ため息


「・・・おい、誰だ。鋼のに酒を飲ませた奴は」

忘年会、と言う名の酒宴。
仕事で遅れて会場---いつもの飲み屋に着けば、何故だか知らないが未成年が一人混じっていた。

「あー、大佐遅いっすよ!」
「そんな事はどうでも良い」
「よー、たいさ〜」
呑気な声の後に、珍しくご機嫌とも言える声音で小さな錬金術師がヘラリと笑った。
「たまたま宿に帰ろうとしていたエドとバッタリ会っちまって、」
と若干理性を残した、だが、酒の入った恰幅の良い少尉が顛末を話す。
・・・頭痛がして来た。
幸いにも今日は副官が不参加だったから良かったものの。
いや、居たらこの事態にはならなかったか。
「どうでも良いが、このままにしておけないだろう。連れ帰る」
いくら馴染みの、内内の話が出来る店と言っても、軍人が未成年を酒の席に置くなんて。
ガシリ、と上機嫌で部下と笑いあう子供を掴み、肩に担ぎ上げた。
「んだよ、なにすんだよ」
「やかましい」
些か舌ったらずの声がする。
「帰るぞ」
「えーーーーーーー」
いつもと違って、子供らしく不貞腐れる反応。
全く、と思いながら部下に彼の弟への連絡をするように伝え、数枚の紙幣を渡し店を出た。

・・・何しに来たんだ、私は。

上機嫌で鼻歌を歌う子供を肩に担いでため息を付きながら夜道を行く。
このまま宿に帰すわけにも行かず、取り敢えずは自宅のソファにでも転がして置こう、と帰路に着いた。



「ほら、降りろ」
「とうちゃーく!」

自宅の門を潜り、ケラケラと笑う子供を家に入れた。
「水だ。飲みなさい」
「おう、さんきゅ〜」
ソファで足をブラブラさせながら、先程から平仮名でしか喋らない子供に眩暈も覚える。

こんな調子で旅先で大丈夫なんだろうか、この子は。

チラリと見るとゴクゴクと音がしそうな勢いで水を飲む子供。
勢いが過ぎたのか唇が濡れている。
「飲んだら今夜はここで寝たまえ」
今毛布を持って来るから、と席を立つと、グイと軍服の裾を引っ張られる。
「何だね?」
「オレ、ソファでねるのかよ。さみぃじゃん」
「生憎ベッドは1つしか無いのでね。ここまで連れて来てやっただけでもありがたく思え。暖房位入れてやろう」
そう言い置いて再び2階の寝室に上がろうとすると、軍服の裾を持ったまま子供まで着いて来た。
「さっぷうけいなへやだなー」
「悪かったな」
酔っ払っていても、舌ったらずでも憎まれ口は健在のようだ。
勝手に部屋を眺めている子供を無視して、クローゼットの奥から予備の毛布を取り出す。
「ほら、持っていけ・・・」
「おー、ふかふか」
振り返ると、人のベッドに勝手にダイブしている子供。
「君。降りなさい」
「えー、オレもこのフカフカベッドが良いー」
ゴロゴロと枕にじゃれつく。
普段の彼からは想像も出来ないような子供っぽい姿に、一瞬絆されそうになるが。
「年末進行で疲れてるんだ。悪いがベッドは譲れない」
寝に帰って来ているような家だ。
彼の賛辞通り、寝具にはこだわったのだ。
ここで安眠できずして何の為の深夜帰宅か。

「じゃー、たいさもいっしょに寝れば良いじゃん」

・・・何と言った?

「君、酔っ払うのもいい加減に・・・」
色んな意味であり得ない提案に、頭痛がまたしてきた気がする。
「いーじゃん」
「いーじゃん、って君ね、これは私の部屋なんだが・・・っ」
ベッドから剥がそうと近寄った所で、今度は軍服の合わせを思いっきり引っ張られた。
「・・・おい」
「あっはっは」
ベッドに転がった自分を愉快そうに笑う子供。
「ほら、大佐、上掛けないと風邪引くぜ?」
聞く耳持たず、さっさと上掛けを2人にバサリと羽織った。
「君ね・・・」
何でこんな事態になっているのか。
今日は残業明けに気のおけない部下と酒を楽しむ日では無かったのか。
何だってこんなジャリガキに左右されているんだ。
「・・・アンタってさぁ」
「何だ」
本日の狂いまくった予定について考えていた所に、モゾモゾと小さな身体が近寄って来る。
酒を帯びているせいか心なしか体温も高い。
・・・いや単に子供体温なだけか?
「アンタって・・・、結構世話焼きだよなぁ?」
クスクスと面白そうに笑う子供。
「・・・そう思うのなら、世話を焼かせないでくれたまえよ」
普段無い上機嫌な様子に、ペースを掴めないまま盛大に溜息を付いた。
「でも、」
「何だ」
未だ何かあるのか、と横に近づいて居た子供に視線をやると。

「そういうトコ、結構好きだぜ?」
「は・・・? ---・・・!」

ちゅう、と小さな唇が口付けて来た。

固まっていると、小さな身体が凭れ掛かって来て。
「ははは鋼の?」
みっともなくも、今の出来事に動揺していると。
「・・・---スー・・・」
小さな寝息が聞こえて来た。


「---反則だろう・・・」

小さな身体を抱えたまま。
嫌じゃなかったり、体温が心地良いとか、サイズが堪らないとか、舌ったらずで喋る様が案外可愛いとか、
意外と綺麗な顔をしている子だ、とか。

懐いてくれると嬉しい、とか。

明日になったら忘れてしまっているのかな、とか。
それは酷く残念だ、とか。

思ってしまった自分に。

「嘘だろう・・・?」

眠る金髪の旋毛を見つめて本日何度目かの溜息を付いた。

 

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エドワードさん攻めで(違)。
翌日、大佐はじっとエドさんを見つめて意識するが良い(笑)。

・・・そして実はエドさんは確信犯です(笑)。途中から言葉が漢字になってます(笑)。

2008.12.28