36、怪我・血



「まったく、バカじゃねぇの?」

溜息を付きながら、金髪の少年が簡易な椅子にドカリと座る。

「君はもう少し上官を労わろうとかないのかね?」
「上官らしい上官ならな。」

白い部屋に。
不機嫌そうな顔でベッドに腰掛ける黒髪の男。
チラリ、と蜂蜜色の瞳が白い腕、否、白い包帯が巻かれた腕を見る。

「もう少し冷静な判断力付けろよ。」
「・・・うるさいな。」

憮然とした顔で窓の外を向く。

「部下を盾にするならともかく、盾になる司令官なんて何処にいんだよ。」
「子供に守られる司令官なんて何処にいるんだ。」
子供って言うな!と抗議しつつ。




そう。
街で起こったテロ。
性質の悪い事に、規約を破って退役させられた元・軍人が逆恨みをし、軍に恨みがある、これまた曰く付きの者共と結託し何処から仕入れたのか、銃火器を武装していた。
仕入処は今頃司令部で吐かされている事だろうが。
腐っても元・軍人。
銃の扱いに慣れて居た為、それなりに手こずったものの、
所詮有能な部下達の前では着々と収束を迎え。
そんな折にたまたま戻って来た、と言うかトラブルある処にエルリック兄弟有り、
とでも言うかのように、鋼の錬金術師と弟が通りすがった。
見慣れた面々に気付き、またテロにも気付いた。
勝手知ったるイーストシティ、裏道から近寄って、そっと様子を伺おうと覗いた折。
はす向かいの影から、捕まらずに潜んでいた残党の男がロイに向けて銃を発砲した所だった。

「っ大佐っ!」

練成まで間に合わない、と
咄嗟に右手で庇うようにロイの前に飛び出した。
「っ!」
「兄さんっ!」
瞬時に肩を引き寄せられ、弟の声と重なるように爆発音と数発の銃声。
煙から視界が開けると、ハボック達に取り押さえられる残党。
犯人の肩から血が流れているのはホークアイの銃に寄るもののようだ。
その位置が先ほどより離れているのは、どうやらロイの錬金術によって吹っ飛ばされたらしい。

「・・・あっぶねー・・・。」
「何をしている!」
呟いた途端に上から叱責の声。
「何って・・・狙ってんのが見えたからに決まってんだろ!」
「飛び出す奴があるか!」
「んだよ! 身体が咄嗟に動いたんだよ!無事だったから良いじゃねぇか!」
食って掛かる少年に、
「・・・君は少し物事を冷静に判断する力を身に付けたまえ。」
厳しい視線で一瞥をくれ踵を返した。

「兄さん大丈夫? 」
それまで様子を眺めていた弟が駆け寄って来た。
「ナンだよ、アイツ。助けてやったんじゃねぇか。」
「もう、兄さん無茶ばっかりするんだから! 大佐も怒るよ。」
「知るかよ。」
ハッと面白くなさそうに息を吐く。
「も〜・・・あれ? 兄さんやっぱり怪我したの?」
無謀な兄の行動に怒りつつ呆れつつをしていた弟が一点を見やる。
「してねぇよ。だから無事だったから良かったじゃねぇかって言ってんだ。」
「でもだって、血が付いてるよ? コートにまぎれて判らなかったけど。」
「え?」
弟の視線を辿って、肩と二の腕辺りを良く見ると、
赤いコートに混じって濃い赤の染みがついていた。




「全くよー。別にオレ庇わなくても、機械鎧なんだからさ、怪我しねぇっての。冷静になって下さいー。」

椅子に座ったせいで目線がまた上になった男に、呆れた眼差しで現場で言われた台詞を逆に放つ。

犯人自体はロイの錬金術と援護射撃で吹っ飛びはしたが、無駄に腕が良かったらしい銃撃は確実に心臓を狙っていたようで、避けたものの、左腕を掠めた。
エドワードの服に付着する程の出血をしていたのに、
そのまま何食わぬ顔で隠していようとしたのが気に入らない。

指令部に向かい、その気分を表すかのように荒々しく医務室の扉を開いた。
その白い部屋に仏頂面で現れたエドワードを見た時には男は苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、
ズイ、と無言で赤いコートを突き付けられて隠せない事を悟ったらしい。


「・・・だからだよ。」

ふぅ、と溜息を付く大人。

「だからって何がだよ?」

怪訝そうに訊くと。
外を向いていた男が振り返る。

「君は、機械鎧だからと言って無茶をし過ぎる。
その腕だって、幼馴染が創ってくれた大事な君の腕だろう?」

思いの外、静かに声を掛けられて。
だから・・・!と言いかけた勢いを削がれた。

「・・・。」

居心地悪く、視線を彷徨わせた。
そんな自分に言い聞かせるように、

「それに、癖になる前に咄嗟に動く時の別の方法も考えて置きなさい。
 ・・・君は腕を取り戻すんだろう?」

そ、と、怪我をしていない方の手で右手を取る。

「もっと、大切にしなさい。そこを冷静に考えるように。」
「・・・。」

弟同様、幼馴染の事を出されると弱い。
どんなに丁寧に大切に創ってくれて、どんなに心配してくれているかも分かるから。
そしてソレをこの男も知っているから。
俯き加減に口元を引き結んだオレを見て、彼は右手を撫でた。

「・・・だからだよ。」
「ん?」

しばらく黙っていたが、ボソリと吐き出すように、
同じ言葉を洩らした。

「何が”だからだよ”なんだい?」

促されるように聞き返される。

「飛び切りの機械鎧技師が創ってくれた、自慢のオレの腕だから。」
「・・・だから?」
「・・・負けない、守れると思ったんだよ。」
「・・・鋼の・・・。」
「そこんとこ、冷静に考えやがれ、ばーか!」

少し瞠目する男に、
きっと慣れない事を言ったせいで、耳が熱を持っている気がするが、
誤魔化すようにキッと睨み上げる。


「そうだな・・・。ありがとう。」

そんな自分に。
ロイはフワリ、と笑みを浮かべ右手の指先に口付ける。
気障ったらしいその行動に
眉間に皺を寄せて咎めるように眺めながら、頬を少し染めつつ

「・・・オレも・・・サンキュ。」

言えずにいた礼を小声で落とした。


きっと同じように守ってくれようとしてくれた、
先の未来の生身の腕をも守ってくれようとしていた男。


怪我した腕を引っ張って。

「っ痛っ! 何を・・・!」

少しバランスを崩した男の腕を抱えて、包帯の上に口付けを1つ。

「・・・っ!」

驚いて目を瞠る男をニヤリと見やって。

「とっとと良くなれよ!」

ぱっと離して、紅い顔を見られないように部屋を飛び出した。


「ま、待て鋼の! せめて包帯の上でなく腕に直接・・・! いや、唇に・・・!」


なんてさっきまで大人の雰囲気を保っていた
国軍大佐殿の焦る声が 医務室から聞こえてきて笑った。

---無事で、良かった。

 



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怪我ってーと、エドさんのイメージですが、
ロイ殿も無茶しますよね。
そして。
後で包帯の所にしかキスして貰えなかった、と拗ねて拗ねて拗ねまくりますよ、きっと(笑)。
エドさんが、あぁもううるさい!と折れるだろうに、1000センズ。

2007.01.21