37.距離


「鋼の、頬に睫毛がついているぞ」
「へ?」
報告書を出してきた子供に指摘してやると、エドワードはごしごしと乱暴に頬をこすった。
「そんなに乱暴にするものではないよ」
「んー・・・」
と取ってやるからと手招きすると、子供は頬をいじりながらフラフラと素直に寄ってきた。
金色の睫毛なので良く見ないと見つからない。
「あぁあった」
「ホント?」
摘んでやると自身の頬の辺りを見ようとしてか金瞳がキョロリと動いた。
綺麗な、ハニーゴールド。
稀有なこの色と意思の強そうな透明な輝きは、魅力的で吸い込まれそうになる。


「・・・君はこの距離は緊張しないのかな?」
「へ?何で?」
「それとも慣れているのかな?」
「は?何が?」
吐息がかかりそうな位の位置にある小作りな顔に問い掛けると、心底不思議そうな顔をした。
「キスの距離じゃないか」
「キス?」
思わせぶりに顔を寄せてもまだ意味を掴みかねているようだった。
「・・・あぁ、キスの距離と考え付かないと言うことは未経験か」
警戒心の無さにそう口にすると、まだキョトリとした様子の子供は考えるようにまた金瞳を動かして。
「・・・別に、だって大佐だし。そんなの考えるかよ」
未経験を指摘されてムッと唇を尖らせた後、男相手じゃん、とサラリと言う子供。
その様子に信用されていると喜ぶべきなのか。

「そうかな? そう考えるのは君だけかもしれないよ・・・?」
「は・・・?・・・・・・・・・!」
顎に手を掛けても怪訝そうな顔をするだけの子供の、まだ誰のものでもない初めての唇にチュと啄む。

「―――・・・・・・・・・・・・え?」
「―――信用してくれている距離から、今度はもう少し親密な距離と言う事にしてくれると嬉しいね」
呆然とする子供の頬を撫でて「睫毛取れたよ」と耳元で囁いて離れた。


ようやっと真っ赤になって座り込んだ子供に、次に近付いた時は意識してくれるかな、と楽しみに待つことにした。


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兄さんは信用している人には無警戒に近付きそうだなぁ、と。


09.11.21携帯日記、2009.12.06up