やけに外が暗いな、と思ったら
雨が降り出していた。
雨足は強く、しばらく止みそうにない。
晩秋の雨は、一段と身体に冷え込む。
窓の外を眺めながら、執務室へと戻る。
「待たせたな、鋼の。」
カチャリ、と扉を開いて。
会議の間に到着した、と言う小さな錬金術師が
特別文献閲覧許可書を待っている、と
副官から先ほど伝えられた。
しかし。
いつもだったら、ドアが開いた瞬間に
「おっせーよ!」と返って来る声はなかった。
「鋼の?」
待ちくたびれて、他の部屋にでも行ったか、と
歩を進めると。
彼の定位置であるソファの背から、
わずかにトレードマークでもあるアンテナが覗いていた。
「また読書中か?」
だとしたら話しかけても無駄だな、と思いつつ、
ソファに回って見ると、
膝の上に本を置いたまま、くぅ、と眠る子供の姿があった。
「まったく、上官の部屋で居眠りとは良い度胸だな。」
溜息を軽く吐いてはいるものの、
言葉と裏腹に、表情は優しく。
こうして黙っていれば、歳相応(よりは見た目は幼いが)に見えるのに、
と、
膝の上の本をそっと取り上げた。
「鋼の。そこで眠っていたら風邪を引くぞ。」
先ほどからの雨と、人が不在だった執務室はかなり冷え込んでいる。
彼の機械鎧に冷気は良くないだろう、と、声を掛けるが
「んー・・・。」
僅かに身じろぎをしただけで、現の世界には帰ってきてはくれない。
「コラ。起きるか、眠いのならベッドで眠りたまえ。」
軽く肩を揺すると、
触れたロイの手から温もりを感じたのか、
猫のように、スリ、と擦り寄ってくる。
(可愛いな。)
滅多に甘えない、この子供が擦り寄る事なんて先ずない、と
柔らかい笑みを浮かべて、
反対の手で、愛しい子供の金糸を撫でた。
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(ん・・・。あったかい・・・。)
己に優しく触れる、暖かい手。
こんな風に撫ぜてくれる人はただ一人。
(エード、起きなさい。こんな所で眠っていたら
風邪引いちゃうわよ?)
(ん〜〜〜〜・・・。)
(アルはちゃんとお布団行ったわよ?)
(んー・・・・。)
(もう、しょうの無い子ね。)
(・・・かぁさん・・・。)
暖かい手で、柔らかく撫ぜて、笑いながら毛布を掛けてくれる。
大好きな母。
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「・・・さ・・ん・・・。」
自身愛用の黒いコートを彼に掛け、
ゆっくりと、髪から丸みの残る頬へ撫でていた男は
微かに聞こえた声に耳を近寄らせる。
「?」
「・・・ん、かぁさん・・・。」
そして。
近寄った男の身体に、体温を感じたのか、
ふいに腕が伸びてきて、首に巻きつく。
ぎゅう、と抱きつかれて。
僅かに目を瞠る。
幼い子供のように、母親を放すまい、とする彼に。
「大丈夫だよ。安心して眠りなさい。」
「ん・・・。」
ゆったりと抱き返して、耳元、優しく囁いた。外はまだ雨。
頼る事も甘える事も良しとしない、小さくて大きな愛しい錬金術師に。
この雨の間だけでも、優しい休息を。
2006/11/16日記