「私の方が多い。」
「いーや、オレだね。」
執務室にて。
仮にも東方司令部司令官殿と最年少国家錬金術師殿が
低次元な口論を長々と繰り広げていた。
世はバレンタイン。
謂わばモテ度のバロメータと言うか。
本命チョコが一番嬉しいのは嬉しいが、
義理でも何でも0個と言うのは男のプライドが許されないらしい。
しかし。
ここの司令官は、毎年、他の下士官達にぶっちぎりの差で圧勝している訳だから、貰ったか貰ってないか、多いとかそんなレベルの勝負になり得なかったのだが。
今年は違った。
たまたま珍しく本当に珍しく、鋼の錬金術師が帰還の連絡を事前に入れていたのだ。
バレンタイン当日に到着するらしい、と言う話は、特に隠す話でもないので、それとなく司令部内に知れ渡っており。
度胸も気前も元気の良さも、ついでに態度も大盤振る舞いのエドワードは結構司令部のお姉さま方に大人気だったのだ(マスコットっぽい所はさておき)。
エド君甘いもの好きだったわよね、と言う話から、チョコをあげようと言う話に繋がるのは当然のようで。そんな展開は男性陣からは面白くないような話、と思いつつ、ちっさい癖に気合も実力も気さくさも充分、何よりあの司令官
と渡り合えるだけの知識と言動力の弟分は、今年は常勝ロイ・マスタング大佐を破るだろう、と大期待を掛けられて(ついでにオッズ表も作られて)いた。
そして当日。
抱えきれないばかりのチョコレートを箱に抱えて。
胡散臭い笑みを浮かべた大佐殿は、同じ位の量のチョコレートを抱えた小さな錬金術師に、こめかみをヒクリ、と動かした。
いつもより念入りな大人の大人気ない嫌味から、その勝負は始まり。
子供はいっちょまえに男のプライドを語り。
小1時間後には、お互い見せびらかしながら、1包みに1粒ずつ食べながら
(通常のロイは全部は食べないが、アンタと違って気持ちを無下に出来ない性質なんでね、と言う台詞をまた大人気無く買って、食べる事態に至った)、数を数えていた。
***
「・・・(うぷ)、そろそろ負けを認めたらどうだね?」
「(・・・ヤベ腹いっぱいになってきた)、そっちこそ、ほんとに数が判った時にショック受けねぇよう、ここらで止めといた方が良いんじゃねぇの?」
・・・さすがにあれだけ大量のチョコを食べ続ければ、好きでも具合が悪くなろう。
しかし。
しぶとさもお互いぶっちぎりである。
変な笑みと汗を浮かべたまま、無意識に飲み物を注ぎ足す。
既に、(何度も呼ばれるのが面倒なので)ご自分でお好きなタイミングで淹れて下さい、とホークアイにポットごと渡されている。
「・・・もう無いのじゃないのかね?」
「そっちこそ。」
フフフ、と不気味な笑いを湛えてお互いの残量を探る。
しばし、間合いを取るように視線を伺い。
「・・・今ので最後だ。」
「・・・オレも。」
さすがに、二人とも食べすぎで気持ち悪いので引っ張らずに白状した。
「ふん、まぁ子供に菓子を与えたくなるのは大人の性と言うものだしな。」
「往生際悪いぜ?管理職に仕方ねぇから、義理チョコ渡すお姉さん達も大変だよな。」
「・・・。」
「・・・。」
睨み合って。
「・・・引き分け、と言う事で。」
「・・・そうだな。」
頭が良い筈の二人は、やっと不毛ぶりに気付いて下さったようだ。
「鋼の。ちゃんと空き箱や包装紙は片付けたまえよ?」
「へーへー。そっちこそ机の上に広げてたら、中尉に撃たれるぜ?」
うぷ、と二人とも口元を押さえつつ、文句も言いつつ片づけを始めた。
***
「あ。」
「何だね?」
急に大きな声を出した子供を怪訝そうに振り返る。
「チョコが一個落ちてた。」
「何?」
綺麗な、ピンク色の包装紙に赤いリボンが付いたそれは、間違いなくバレンタインのチョコレートだろう。
じ、と眺め。
「オレのだな。」
「何?」
エドワードの言葉に、ロイが鋭く見やる。
「アンタにはこんな子供っぽいチョコこねーだろ。」
「いやいや、女性はいつだって可愛らしいものを好むのだよ。
贈り主の趣味だろうし、この執務室に落ちていたのなら、私宛に違いない。」
「いーや、オレの箱から落ちたんだよ。それにオレ拾ったし。」
「拾ったものは届けたまえよ。という訳で、コレは私が預かる。」
「ずりーぞ。大人気なくまだ数気にしてんのかよ。」
「君こそ、子供扱いされると嫌がる癖に、子供っぽいから自分宛、と言う辺り、勝負を気にしているんじゃないか。」
「そっちが先に気にしたんじゃねぇか。」
「私がいつ気にしたと言うのだね。」
「それに、落とし主が現れなかったら、拾い主のものになるだろうが!
よってコレはオレのものだ!」
「この執務室内に落ちていたのだぞ!私のものに違いないだろう!」
「〜〜〜っ!」
「おい!」
手にしていた包みを解き、大きめのハート型チョコを掴んで食べようとしたエドワードに気付き。
食べさせまい、と手を抑えた。
「オレんだって!」
「私のかもしれないだろう!」
「放せよ、てめー!」
「君こそ!」
ぐぐぐ、と馬鹿力二人によって摘まれているチョコが今にも割れそうになる。
「割れちゃうだろ!」
「君が放せば良いことだ!」
そして。
パキ。
二人の指に欠片を残して、大よその部分が割れ落ちる。
「「あ!」」
咄嗟に取られる前に口の中に入れてしまおうと、チョコに近づいたエドワードに釣られるように、ロイも同じように近づいて。
ガチ。
ポト。
二つの音が耳に届いた。
「・・・ったー。」
「っー・・・。」
二人とも口元を抑えて、蹲る。
そして気まずそうに、お互いを見やる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・同点って事で・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・異論無い・・・。」
すっく、と立って。
無言でお互いのチョコを片付け始めた。
(・・・今の・・・)
(・・・今のは・・・)
(大佐の・・・)
(鋼のの・・・)
((唇だったよな?))
2007/02/16日記