非番の日。
珍しく帰還していた、かの愛しい子供を半ば拉致のように攫って。
(弟は何となく空気を読んで手を振っていた。聡い子だ。)
自宅に連れ込んだは良いが。
先ほどから本と語り合ったまま、人のうちだと言うのに家主を無視してくれている。
ええい、つまらん。
憎きは恋人を独占している、私の素晴らしい蔵書だが。
急な非番と突然の帰還で、彼が今日うちに来る(拉致)事を想定していなかった為に、無造作にリビングのソファの上に置きっぱなしにしてしまったのだ。
しかし。
家で家主なのに客に無視されて3時間。
じっと待った私は偉いよな?
「・・・重い。」
「そろそろ構ってくれたまえよ。」
背後から抱き締める。
「うっとうしいから離れろ!」
「受理出来んな。」
首元に顔を埋める。
捩って払おうとする身体をさらに深く抱き込む。
「だーー! オレはこれが読みたいんだよ!」
「それは私の本だが?」
「読ませろ。後ちょっとなんだ!」
「受理できん。」
両手で抱き締めている腕を外そうともがいているが、
彼がいくら武術に長けていても、一応こちらも軍人の大人なので外れる事はない。
「心狭いぞ!」
「君の事なら狭くもなるさ。」
「本に嫉妬かよ!」
「悪いか。」
即答したら、あっけに取られたように動きを止めて見遣る。
「あーー!もう恥ずかしい三十路だな!」
「三十路前だ。まだ。」
「恥ずかしい奴には変わりねぇ!」
「恥ずかしくて結構。君に惚れているからね。」
口をパクパクさせて、カァっと頬を染めあげる。
頭の回転の速さから巧みに出る捻りを聞かせた悪口雑言の代名詞のような彼だが、案外直球に弱い事を知っている。
「・・・あー・・・もう・・・。」
ゴニョゴニョと、没頭したオレも悪いけど・・・と口の中で詫びる、マジメな部分。
そして、何だかんだ言って、大人を甘やかしてくれる度量の広い子供だから。
顔が赤いまま視線を一旦泳がせて。
「・・・仕方ねぇな。」
そう言って、力を抜き身体の向きを反転させた。
「・・・ははっ、拗ねた顔してら。」
「うるさい口は塞ぐぞ。」
「・・・・・・好きにすれば?」
今日彼が帰還してから、初めての口付けを交わした。
2007/03/30日記