間違った父性愛。

「うおーー!すげぇっ!」
「兄さん、危ないよっ!」

廊下を歩いていたら、外から耳に馴染んだ声がする。

来ていたのか。

会議に出席している間に、兄弟が訪れていたようだ。
声がする方を伺うと、長身の部下と、足元を駆け回っている
副官の愛犬の声も聞こえてきた。

「たっけーーっ!良いなー、こんな視界になりてぇ!」
「兄さん、僕を越してる時点で万国ビックリ人間だよ。
ただでさえお騒がせ人間なのに。」
「なにおう!」
「コラコラ、上で暴れるな。枝にぶつかるぞ。」
「いってぇ!」」

窓から覗くと、中庭でハボックがエドワードを肩車していた。
はしゃぎ過ぎたのか、庭の木の枝におでこをぶつけたらしく、手でさすっていた。

「もー、兄さん、何でそう落ち着きないのさ。」
「ははは、背の高い気分味わいたい、って言ってたけどよ、
しょっちゅう色んな所にぶつかって大変だぜ?」
「抜かりない!」
「ハボック少尉、この人ホントに避ける練習してるんですよ?」
「マジで?」
「こら、バラすな!」

自分と居る時には無い楽しそうな雰囲気。
むぅ、ハボックめ、人がつまらない会議に出ている間に鋼のと和気藹々と遊んでいるとは。
私はあんな無邪気な顔、滅多にお目に掛かれない、と言うのに。
一瞬、発火布を出そうとして、

「あんま肩車とかして貰った覚えねーからさ。新鮮だな。」
「そうだねぇ。」
「親父さんにやって貰ったりしなかったのか?」
「物心ついた時には居なかったからな、アイツ。」
「仮に居たとしても、ナンか力持ち、って感じはしなかったよね。」
「だな。」
「そーなのか?」

うんうん、と、頷き合う二人。

「まぁ、こんな肩で良けりゃ、いつでも貸してやるぜー?」
「やりぃ!」
「良いなー、兄さん。」

ブラックハヤテ号を腕に抱えて、少し羨ましそうに眺めるアルフォンス。
見た目は鎧でも、14歳の少年だ。
まして幼少期に母親を亡くして、10歳からは鎧の姿。
甘えても良い時期に、スキンシップの術を失っている。
兄もそうだが。

「アル、アル!ちょっとこっち来い。」
「なに?」
「ハボック少尉、ちょっとだけ屈んで?」
「こうか?」
「そうそう、うし!」
「え?あ。」

ガシガシ、とアルフォンスの頭を撫でるエドワード。

「よっしゃ、立ったアルを撫でられたぜ!兄の威厳!」
「兄の威厳、って。ハボック少尉に肩車されてるじゃん。」
「うるさい。」

再び、ガシガシと頭を撫でる。
なんだかんだ言いながら、アルフォンスが嬉しそうだ。
多分、父親に頭を撫でられた記憶も余りないのだろう。

「生身に戻ったら、アルも肩車してやるからなー。」
「本当ですか?わぁい!」
「オレ、その頃にはハボック少尉の身長超えてたりな。」

ニヤリ、と笑うエドワードに。

「そしたら間違いなく、アルはオマエの身長も越してるだろうな。」
「元々僕の方が高かったしね。」

二人揃って言われ。

「誰が豆粒ドチビかーーーっ!」
「わわわっ!だから上で暴れるなっ!」
「兄さん、またぶつけるよ!」
「ふべっ!」
「もう、言ってる側から・・・。」

再び、おでこを押さえて、ハボックの頭につっぷすエドワード。
騒ぎながら、照れたようにはにかむ笑顔。
騒いで誤魔化しているが、恐らく滅多に出来ない父性的な甘やかしを他意無く受けて嬉しいのだろう。
ハボックにはまた別に仕置きをするとして、執務室へ戻った。
きっと、元気に部屋に走りこんでくるだろう、彼の為に。


「大佐っ。報告書!」
「やぁ、鋼の。」

予想通り、遠慮も何もない勢いで、バン、と執務室の扉が開いた。
その勢いのまま、小走りで机に座った私目掛けて、報告書を出す。

「君ね、ノック。それと報告書を丸める癖を直しなさい、と何度も言っているだろう。」
「足音でわかんだろ、軍人なら。

報告書は丸まっても読めるだろ。綺麗で中身のない文章よりよっぽどマシだろーが。」
2割増し位の可愛くない応えが返って来た。
むむ、先ほどはあんなに素直な様子を見せていたと言うのに。
しかし、今日の私はそんな事には嫌味を返さない大きな人間である事を決意したのだ。
あの無邪気な笑顔が、ハボックだけのものだなんて、許しがたい。

「さっさとチェックしてくれよ。終わったらメシ食って図書館行くんだから。」

そう言って、定位置である、ソファに向かいかけて。

「待ちなさい。」
「あ?」

行きかけた足を止めて、怪訝そうに振り返る。
たまには笑顔を向けてくれても良いのに。
と思いながら、彼の近くに歩み寄る。

「鋼の。」
「なんだよ。」

未だ警戒心たっぷりな視線を向けてくる様は野良猫のようだ。
膝をかがめて。
目線を合わせて、肩に手を置く。

「なんだってんだよ?」
「鋼の。」
「だから何?」

「・・・私の事をお父さん、と呼んでも良いんだよ?」

「・・・・・・は?」

「お父さんには若いか。お兄さんでも良いぞ。
おんぶもキャッチボールもやりたい事があったら言いたまえ。」
「・・・。」
「やはり、先程のように肩車は外せないか。何が良いかい?」

にっこり、と笑いかけた。
数秒の沈黙の後。

「・・・頭沸いてんのか?」

凶悪な顔で且つ、可哀想なものを見るような目つき、
と言う器用な表情で、蹴りを入れられ、扉の向こうに去って行った。

「ま、待て鋼の!私は本気で・・・!」
「本気なら尚更タチ悪ぃわ!寄るな!」

蹴られた腹を押さえながら、追っても彼は既に廊下の向こう目指して駆け出していた。
司令部内に丁度戻って来たハボックが、遠目でも「なにやってんすか?」と言う視線を寄越して来た。

「あ、ハボック少尉!メシ一緒に食おうぜー!」
「何?!鋼の!ランチは私と一緒に・・・!」
「やなこったい!」

ハボックの腕を取り、べーっ、と舌を出す。

「腕組か!?腕組が良かったのか?!」
「んな訳ねぇだろ!さっさと仕事しろよ無能!」
「なに?どうかしたのか?」
「ハボック、減俸だ!」
「えぇー?!なんでっすか!」

状況が判らないまま、豆台風に引きずられて行くハボック。

「あぁ・・・団欒ランチ・・・。」

姿の消え行く廊下に向かって未練がましく手を伸ばしていると

「さっさとお仕事なさってください。」

背後に絶対零度のオーラが立ち上る。

「な・・・!君いつから居たんだね?!」
「大佐がエドワード君に意味の判らない発言をされた頃からです。」

後には、冷ややかな微笑を浮かべた有能な副官に一蹴される
打ちひしがれた情けない大人が残った。



2007/04/22日記

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キモいマスタング(あ)。

2007/09/24