
※未来捏造です。
背後から、意図した動きで伸びる手に。
「暑いから近寄んな。」
「・・・鋼の・・・。」
軽い肘鉄で身体をどかして、ベッドの端に追いやると、明らかにガックリとした声。
身体を取り戻す前も、暑さで機械鎧に熱が籠もり、辟易したものだが。
無事手足を取り戻し、恩を返す為に正式に軍入りして、何でか上司と恋人関係になり、数ヶ月前から一緒に住むようになった今も、どうやらそう言った物理的な話でなく、忘れていたけど暑いのが苦手だった。
冬生まれの奴は寒さには強いが暑さに弱い、なんて聞いた事があるけど、本当だろうか。
なんて思考を飛ばしていたら、
それでもめげずに、腕だけを伸ばして、髪に触れてくる男。
「君・・・ずっと暑いと言っては触れさせてくれないじゃないか。」
「暑いの苦手なんだよ。ベッドが一緒なだけでも譲歩してやったと思え。」
ホントは、暑い最中は一人で寝たい所だったが、たかがこれしきの事でこの世の終わりみたいな顔をする男の必死の食い下がりによって、現在に至る。
「鋼の・・・。私たちは恋人同士だよな?」
「多分な。お休み。」
「ちょっ!待ちたまえ。」
まだ続きそうな、ほぼ毎晩のやり取りに、さっさと会話を終了させて寝に入る。
・・・まぁ、言いたい事は分かるけど。
そこまでシたいって思わない、案外淡白だったらしい自分に対して。
イイ歳して、いつでも全力投球(もしかしたら全力じゃないかもしれない、なんて考えるのも恐ろしい)のこの男。
ただでさえ暑さで参って、仕事もハードで、夜もなんて・・・やっぱり夏は勘弁願いたい・・・。
その・・・たまに位なら良いけど。
たまに、じゃねーんだもん。
しょんぼり、とオレが嫌がるから、反対側のベッドの隅で眠りに付く男を気配で感じながら、軍務で疲れた身体を休めた。
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マスタング中将の様子がオカシイ。
そんな話を軍部でチラホラ聞くようになって。
そういや、最近お互い忙しかったり、どちらも夜勤やら外出やら出張がぶつかったりして、家で顔を会わせても一瞬だったなー、と思いつつ。
休憩室に入ったら、ハボック大尉に会った。
「よぉエド。今帰ったのか?」
「うん。ったく、狸ジジイ供、歳取ると嫌味しか思いつかねーのか、っての。」
「ははは、昔の中将と同じ台詞言ってんぞ。」
「えぇーー?マジ?嫌だなぁ、それ。」
「オマエも今や中佐だもんな。管理職の辛さが分かったって事だよ。」
「何か、ソレ大尉に言われると何か複雑。」
「ナンだとー。」
ははは、と笑いながら、ふと、噂を思い出して。
「なぁ、そういや、アイツが最近変だって聞いたんだけど。」
「変?あぁ中将の噂か。何、オマエら最近会ってねぇの?」
関係を知っているハボックが、意外そうに眉を上げる。
「何かずっと、仕事が立て込んでてさ。お互い。」
「そっか。んー・・・。変って言うか、真面目に仕事してる。」
「真面目に?」
「あぁ。」
「仕事?」
「そう。」
「そりゃ確かに変だ・・・。」
「だろ?ついでに良く図書館やら資料室に籠もって残業してるらしい。」
「残業?」
「おう。」
「・・・変だな。」
「変だろ。」
ロイのサボリ癖や脱走癖は階級が上がった今も昔も変わらない。
その度に捜索隊に回される、体力部隊のエドワードとハボックは良く知っている。
「あー、それで変に帰りも遅かったのか。」
「あの人あれで、妙な所で一人で抱え込むトコあんだろ。何かまた無理難題でも出されたのかもしんねぇな。
今日もう上がりなんだろ?ちっと相手してやってやれよ。」
普段のロイの構いぶりと、邪険にあしらうエドワードを知って苦笑しながら、くしゃり、と今も自分より下にあるエドワードの頭を撫でる。
「部下に心配掛けてんじゃ仕方ねぇ上司だな。無能め。」
邪険にはしつつも、何だかんだでやっぱり気にはなるので、わかった、と答えて執務室に向かった。
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執務室をノックして。
決して声が大きい訳ではないのに良く通る声で「入れ。」と応えがあって。
「失礼します。」
と、顔を覗かせると。
声で誰だか分かったろうに、顔も上げずに机の上の資料を真剣に目を走らせている男の姿が入った。
決裁箱は既決で埋まっているから、通常業務は終わっているらしい。
噂の、”残業”の方だろうか。
コツコツ、と男に近寄り、
一応、帰還報告をする。
「先ほど、ゲオルグ少将との報告会より帰還致しました。
「あぁ、ご苦労。何かあったか?」
「いえ、特には。いつもの嫌味でした。」
「そうか。」
いつもだったら、堅苦しい言葉遣いじゃなくて良いよ、とか、その嫌味に対してロイも散々だったな、と言った同意を示してくれるのに。
チラ、と目線を上げただけで、再び資料に目を落としてしまった。
これまたいつもだったら、こちらがウンザリする位に、一緒に暮らしてるのに口説くように、君とゆっくり夕食を食べたいだとか、怪我していないか、とか言う理由をつけて触れてきたり、とスキンシップを図ってくるのに。
別の意味で変だな、と思いながら、居心地の悪さを感じ始めていた。
同じ空間にいるのに、目線も合わせてくれないのは、長い付き合いだが、まず無かったと思う。
子供だった頃の自分にも、大人と同じだけの視線で話を聞いてくれていたな、と今更気付く。
そう言えば、ゆっくり話せるのは、いつぞやの晩以来。
いつも通りと言えばいつも通りの会話だったが、さすがに何度も酷い応対をしていたから、ついに怒ったのか、呆れたのか。
そう考えている間も、男は一向に言葉を発さず、資料のページを繰っては、手元の紙にサラサラと走り書きをしていく。
「あ、あのさ。もう仕事終わったんだろ?」
無言の時が長く感じられて、既決箱を差しながら声を掛けてみる。
「オレももう上がりなんだ。
久々にメシでも食いに行こうか。」
「・・・。」
「こないだ視察に行った時にさ、メイン通りにパスタ屋が出来ててさ。冷製パスタが今のお勧めなんだってさ。」
「・・・。」
「デザートにジェラートも良いよな。甘いの苦手なアンタでも・・・」
「鋼の。」
「・・・なに?」
「少し静かにしていてくれないか。」
「っ!」
返事がなかったロイがやっと口を開いたかと思ったら。
どんなに自分が癇癪を起こしても、余裕の表情で相手をしてくれたロイがこんな事を言うのは初めてで。
そんなに話したく無い程怒ってるのか、と、と俯く。
ぎゅ、と拳を握り締めて。
「オレ、帰る。」
と踵を返してもロイは無反応だった。
数歩歩いて振り返って。
未だ顔を上げない男に、態度も素直じゃなかったし、どんな事を言っても許してくれるだろう、と甘えすぎてた自分にも溜息をついた。
ものには限度がある。
きっと、きっかけは些細でも、限度を超してしまったのだろう。
そうならば。
「オレ・・・明日非番だし、・・・どっかアパートまた探して家を出てく・・・」
「出来た!」
言い掛けた所に、意味不明な声が聞こえる。
男にしては珍しい、喜色を含んだ声だった。
「出来た、出来たぞ!鋼の!」
「・・・は?」
ガタン、と椅子を鳴らして立ち上がり、ツカツカと歩み寄って呆然としているエドワードの腕を掴む。
「見てくれ!これで快適生活が保障されるぞ!」
「へ?」
ヒラ、と先ほど迄男が熱心に書き込みをしていた紙を見せられる。
何度か書き直しをした跡が見られる、錬金術の構築式だ。
「ここだ、ここに手間取ってしまってね。あぁ、さっきは邪険にして悪かった。後少しでアイディアの糸口が掴めそうだったんだ。君が来てくれたおかげで、俄然頭の回転が上がったよ。」
そう言いながら、こめかみにキスを落とし、腰を抱き寄せて、勢い込めて説明を再開する。
「大気調節で温度を下げるまでは良かったんだが、余り下がり過ぎても困るので、指定した温度になったらそこを維持するように仕向けるのにちょっと手間取ってね。」
「はぁ・・・。」
「それと、涼しくなったからと言って、君がソノ気になってくれる頻度は少ない。これを上げる方法もないものか、と考えて、酸素濃度を変えて心拍数を少し上げて、あれだ、危険を供にした男女が恋に落ちやすいと言う心理を思い出してだな。いや、君がいつも危険な事ばっかりに首を突っ込んで、いつしか誰かと錯覚の恋にでも落ちてしまうんじゃないか、と気が気じゃない、と言う私の想い、君は知っているかい?あぁ、それは心身ともで無事に居てくれたまえよ、----報告聞いている時にコレだ、と閃いて。」
「・・・。」
「これで涼しくて、鋼のもソノ気になって、一石二鳥!」
どうだ凄いだろう!
と、母親に褒めて欲しい子供よろしく、目を輝かせて構築式を掲げる。
「そんな訳で、さっそくパスタの夕食を楽しんだ後は、部屋で試してみようじゃないか。
家を出て行く必要なんかない。君のと私の快適空間になる予定だ。
何なら、この部屋で効果を一度試してみようか。」
ニコニコと腰を抱く力を強める。
「・・・。」
「・・・鋼の?」
「・・・てめぇはそんな下らねぇ事を真剣にしてやがったのかーーーっ!」
「ぐはっ!」
鳩尾に拳を命中させた。
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「機嫌を直してくれないか、エドワード。」
ソファの隅に座ったオレを必死に宥める男。
落ち込んだり、ちゃっかりオレの言った事も聞いていたのも、恥ずかしくて腹が立ち。
八つ当たりとは分かってるけどさ。
それに気付かなきゃいけない部分も気付いたし。
でも、オレの素直じゃない部分が、口を利くのを躊躇わせる。
ずっとだんまりを続けているオレに近づいて床に膝を着く。
「君が言っている以上に暑さが結構辛そうだったから、それを改善させてあげたい、と思ったんだ。余り眠れていなかっただろう?」
実は種明かしをすると、時々その場しのぎではあるが、シーツの温度を下げていたんだが、余り効果はなかったから少し常用出来るような式を考えようかと思って。と苦笑混じりに言う。
そう言えば、一緒に暮らす前の夏よりは、多少寝やすくなっていた。
頑なに、同じベッドで寝ると言っていたのは、そんな事をしていたせいか。
多分言うつもりのなかった種明かし。
オレが臍を曲げたから言ったんだろう。
「・・・。」
「それと、自分の欲も入っていった事も確かだ。君に取っては下らない事かもしれないが、私は君と一緒に居る時間が欲しかったんだ。」
「・・・。」
「だって君が好きなのに。」
「・・・っ。」
相変わらず、自分と違ってストレートに告げてくる男。
「どうにかして一緒に居られる時間を増やせないかと、必死になっていたら没頭してしまって。」
そのせいで君を落ち込ませてしまうなんて、私らしくもないな、と、ふと笑う。
「・・・オレも。」
「ん?」
「オレも色々ゴメン。」
「君が謝る事はないよ。」
「いつも甘やかされてばっかで、我慢させて、我がままばっかなのはオレの方だ。」
「私の方が甘やかされてるよ。君に傍に居て欲しいのも私の我がままだしね。」
「・・・っつ、オレだって、その・・・。」
あぁ、また素直に言えない。
「無理しなくて良いよ。そう言う所もひっくるめて君が好きなんだ。照れながら、時々気持ちを伝えてくれるのが、可愛いんだし。」
に、と笑う。
「なっ!」
恥ずかしい台詞に思わず振り返ると、悪戯っぽく笑い、フワリ、と抱きしめられる。
「・・・暑いんですけど。」
「そうか。」
「・・・錬金術師とは成果を試したくなるものだよな・・・?」
「ん?」
「アレ。」
机に放り出された練成陣を指す。
「・・・試す?」
目を逸らしながら告げて。
チラ、と上目遣いに見やると、驚いた顔になって。
「!・・・是非。」
嬉しそうに笑うから。
じゃれ付くように首に抱きついてキスをした。
2007/06/23日記