今日は珍しく鋼のが家に来ている。
恋人になったとは言え、なる前と変わらずどんなに誘っても「忙しい」やら「もう出発する」やらで無下に断って来たのに。
どういう風の吹き回しだろう。
珍しい事態に、今まで流した浮名も行動パターンもすっ飛び、微妙にどうして良いか分らないのが情けない。
彼はお決まりの言葉になんて流される訳がないし、かと言って新しい試みを試すのも考え抜いた上でやらねばなるまい。
折角手に入れたんだ、変な事をして嫌われたくない。
そうやって、当たり障り無く自宅にあった本を渡してみたらいつもの様に読書を始めてくれた。
が。しかし。
折角恋人と二人きりなのに色気がないでは無いか。
でも潔癖そうな彼に肩なぞ回した日には半殺しにされるに違いない。
でもせめて抱き締めるとか・・・キス位はそろそろしたい。
恋人になった時に勢いでやった以来だ。
それから何ヶ月経っている?4ヶ月前に告白して、恋人にはなったものの直ぐ逃げるように旅に出られて、一度戻って来て。その時は顔を撫でただけに留まる。そして今日彼が旅から戻るのが2ヶ月ぶりだから2ヶ月か。
このロイ・マスタングが2ヶ月も恋人に手を出していない所か、まさしく、手、手も繋いでいない触ってもいないなんて今まであっただろうか。
「なぁ」
「なっ、なんだ」
大人しかった少年が話しかけて来た。
もう本を読んでしまったんだろうか。
もう帰るとか言い出すんだろうか。
「何でアンタ静かなの?」
「え?あ、あぁいや、読書の妨げになったら悪いな、と・・・」
「いつもそんなのお構いなしじゃん」
「そ、そうだったかな?」
そんなに何かべらべら喋っていただろうか。
何を喋っていただろうか、考えていると。
「・・・帰る」
「えぇ?!」
す、と立ち上がった彼の前に立ちはだかる。
何か気に障ったんだろうか。
やはり自分のおかしな気配に気付いたんだろうか。
うっとうしいとか思われたんだろうか。それは困る。
「ちょっ、何か君の気に障るような事をしたのだろうか?」
「別に」
「何かあるんだろう?だって急に・・・」
「・・・そっちこそ」
「え?」
「何かあるんじゃねぇの?疚しい事でも」
「な、何を言ってるんだ!何もないぞ!」
「だったら・・・んで」
「え?」
「本渡して、黙ってんだよ」
き、と綺麗な金瞳で睨み上げて来た。身長の関係で上目遣いになるから心臓に悪い。
ではなくて。
「へ?」
「話す気が無いって事だろ」
どうしてどこをどうやったらそうなる?
「そんなまさか!折角君が居るんだから話したい。抱き締めてキスしていちゃいちゃした・・・っ」
「なっ!」
しまった、つい本音を言いすぎた。本当彼の前だと経験も何もあったもんじゃない。真っ赤になった彼に怒られるどころか有無を言わせず殴られるだろうか、と思っていたら。
「・・・鋼の?」
「・・・りゃ・・ん」
「え?っ!」
ポテリ、と自分の胸に納まって来た小さな身体に、うろたえて。
腕を回して良いものか二人以外誰も居ないのにキョロキョロする。
「・・・抱き締めていちゃいちゃすりゃ良いじゃん!」
小さな声が胸元から聞こえて来た。
前髪から少し覗いている耳が赤い。・・・そうか。
「では」
「!」
ぎゅう、と苦しくないように、でも逃げられないように抱きすくめた。
「お帰り、鋼の。会いたかったよ」
ピクリ、とした身体を安心させるように撫でると
「・・・・・・・・・オレも・・・」
小さな声と共にきゅ、とシャツの背中の部分を握り返された。
そうだ、彼だって恋人の立場を受け入れてくれた時点で、好いてくれていると言う事だ。
彼もまた会いたいと言う気持ちを持ってくれたものの、戸惑っていたのだ。
自分だって30年近くも生きていて戸惑っている位なのだ。
彼はもっとどうしよう、どうしたら良いんだろう、と思っていたに違いない。
家に来てくれたのが精一杯の彼の表現だったのに。
自分は自分ばかりが好きだと思っていて、彼からの信号が見えていなかったのだ。
彼だって望んでくれていたのに。
「・・・好きだよ」
「!ばっ!何いきなり言って・・・」
愛しくて囁いたら、また更に赤くなって、やっぱり怒られた。
「可愛い」
「可愛いって言う・・・んっ!」
ちゅ、と文句を言い出した唇を奪ってヘラリと笑ったら、真っ赤になりながら仕方ねーな、とそっぽを向いたので耳元に
「たくさんいちゃいちゃしよう?」
と吹き込んだ。
うー、と唸りながらも、Noとは言わなかったのに益々抱き締める腕に力がこもった。
この後の時間はきっと幸せで堪らないに違いない。
2008/03/23日記