*未来捏造です。
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「マスタング少将、ご苦労様であります」
「あぁ」
衛兵に見送られ、車寄せに降り立つと、ス、と軍用車が横付けされた。
門衛が後部座席のドアをさっと開いて、その隙間に乗り込む。
静かに発進された車で、心の中で疲れたな、と思いながら小さく溜息を付いた。
事件が立て込んでいて泊り込みが続いていた。
本当は将軍職ともあれば現場処理や事務処理は余りない筈なのだが、若くしてこの地位に着いた事は相変わらず疎まれるらしく、面倒な処理ばかりが回ってきていた。
幸い明日は久々の非番だ。自宅に着く前に酒屋に寄って貰ってワインとつまみと買い込んでのんびりするか、と思って窓の外を眺めたまま運転手に声を掛ける。
「君、すまないが酒屋に寄って貰えないか?」
「・・・まーた寝酒かよ、だらしねぇなぁ」
しばしの沈黙の後、返って来たのはしばらく聞いていなかった声だった。
「君!いつ戻って来たんだ?!」
「ん?小一時間程前?」
ニヤリ、と信号待ちになったのを確認して悪戯っぽい顔が帰ってくる。
「戻りは明後日じゃなかったかね?」
「よっく覚えてんなー。早く片付いたからあっちの最終に乗って来たんだよ」
今は正式に少佐のエドワードは南の小さな採掘場に現地調査の長として出張していた。
「そうか。それにしても君、いつ免許なんか取ったんだ?」
前を向いているので久しぶりに見る金髪に指を絡めて、そんなそぶりが見えなかった記憶を思い返す。
「触んな。免許はこないだ取った。必要だろ?」
「まぁあるに越した事はないが。そんな時間良くあったな」
「時間は捻出するもんなんだよ」
大変だったろうにあっけらかん、と言う姿に。
そうだった。彼はある時間の限り目的の為に有効に使う性分だった、と改めて思った。
「・・・?自宅に向かっていないようだが。早速迷子か?」
「ちげーよ!そこらじゅう旅していたオレが迷子になるわきゃねーだろが」
明らかに市街から離れつつあるルートを訝しく思っていると、黙ってろ、とバックミラー越しに睨まれる。
しばらく他愛もない話をしながら走っていた車が停車し、降りるよう促された。
本来、今の立場ならほいほいと出歩く事を許されないだろうが、ここには文句を言う者は居ない。
仮に襲われたとしても、国家錬金術師二人が揃っているのだ。相手の被害の方が甚大だろう。
「何処だね?ここは」
「いーから。こっちこっち!」
先導切って歩く、高い位置に括られて靡く金髪に釣られるように着いていく。
そして。
「これは・・・」
「凄いだろ?」
得意気に振り返るエドワードに、あぁ、と頷く。
そこには東の国の『桜』と言う木が見事な花を咲かせていた。
郊外に離れたせいか、街の明かりが無い中夜の闇に月明かりを受けて、淡い輝きを放っている。
「綺麗だろー?」
「見事だな・・・」
二人、草原に腰を下ろし、しばし無言で桜の木の下で景色を眺めた。
柔らかい春の風が心地良い。
「・・・まだ寝酒は必要かよ?」
少し伺うように尋ねてくる琥珀に。
あぁ、心配を掛けてしまっていたようだ、と気付く。
彼だって旅帰りで疲れていただろうに。自分の事では鈍い癖に人の心の機微に相変わらず聡い子だ。
「いや・・・」
隣に座っていた彼を素早く引き寄せて背中から抱き締める。
「ちょっ!何すんだ!」
「十分な癒しだ。ありがとう」
耳元に唇を落としながら静かに囁いた。
声音が最初と変わったせいか、反論しかけた恋人はくすぐったそうに顔を赤くして、小さくどういたしましてと呟いた。
見事な花と同じように、心の中にも柔らかな花が開いたような、穏やかな気分になった。
2008/03/30日記