滅多に着ない式服の上着を羽織った所で内線が鳴った。
「私だ」
「ホークアイ中尉です。エドワード君が来ていますがいかがされますか?」
少し苦笑した声で副官が言った。
時間が余りにないのに、これから出掛ける先が楽しくない事を知っていて、でも自分があの子供と話すのを楽しみにしている事を知っていて電話したのだろう。
「まったく・・・あれほど事前に連絡を入れろと言うのに。報告書だろう。通せ」
「畏まりました」
「連絡を寄越す癖を本格的につけさせなければな」
聞くとはなかなか思えないが、たまにしか帰還しない子供だ。
どうせなら慌ただしく、でなくゆっくり旅の様子を聞きたい。
「15分ちょっとしかないじゃないか」
彼と話す時間を確認する為に見やった執務室の時計の隣のカレンダーが目に入る。
「4月1日か・・・」
しばし考えてニヤリと笑うと、ドタドタと軍人には無い足音が響き、勢い良くドアが開いた。
「よぉ、時間ねーんだって?わりーけど先にサイン一瞬頼むよ!」
前も見ずに喋りながらカバンを開こうとして、自分の顔を見て止まった。
「やぁ鋼の」
「何その格好」
ビックリしたように金瞳が瞬く。そう言えば彼は式服姿を見た事がないかもしれない。
彼に近づき、ふふん、と笑う。
「似合うだろう?」
「・・・・・・髪上げれば多少は童顔じゃなくなるみたいで良かったな」
エドワードは何とも言えない顔をして、微妙な、人が気にしているコメントを寄越した。
ヒクリ、としてると不思議そうに聞いてきた。
「何?なんかの式典にでも行くのか?」
「いや。・・・結婚する事になったんだ。今から先方の家に行くのでね」
「え?」
「結婚式には招待状を出すから、アルフォンスとおいで。あぁサインだったな。寄越したまえ」
静か笑って言った。
さぁどうでるか。
ようやっと年貢の納め時だな、とか、子供じゃあるまいし今更エイプリルフールに騙される訳ねーだろ、とか。
いずれにしろ、いつものように適当に言い合いをして楽しく出発出来るだろう。
この忙しいのに公爵家の腹黒いじーさんのご機嫌伺いに行かされるなんてクソ面白くもない。
奥方が私のファンだとかどうでも良い理由で式服まで着せられて。
相手は公爵家だから無碍にも出来ず、イライラしていた所で子供の帰還。
この少しの時間でも彼と話せば明るい気分になれる。
と思っていたのに。
「ほら、持って行きたま・・・鋼の?」
「・・・そっか・・・そか・・・」
うつむいていた金糸が上がったら、そこには傷付いた目をした、泣き出しそうな子供がいた。
「鋼の・・・?」
「・・・おめでと、大佐。じゃ」
くるりて踵を返し、折角サインを書いた書類も受け取らずに彼は去ってしまった。
「な・・・おい!」
廊下には既に姿なく。
代わりに迎えのハボックがやって来ていた。
まさかあんな顔をするなんて。
その後のパーティーでも、意外と人脈が広いコネクションを作るには絶好の機会の場であったにも関わらず、頭を占めるのはあの少年の泣き出しそうな顔ばかりだった。
2008/04/04日記