節分。


2/3・・・節分。

鬼は外、福は内、と言うお決まりの風習もさることながら、もう1つ節分の、一部の地方で行われ、近年段々と行われている風習がある。

―――「恵方巻き」である。

「恵方巻き?」
「節分の夜に、その年の恵方に向かって目を閉じ願い事を思い浮かべながら一息に食べる巻き寿司です」
糸目の准尉がすかさず疑問に答えた。
「・・・それが何故ここにある?」
「テロの撲滅および平和を願ってどうぞ、と商店街からの差し入れです。と言う訳で大佐も1つお持ちください」
副官が横から答えた。
市民からの差し入れ。嫌われがちな軍部に取ってありがたい事である。
この上司が愛想振りまきながら市内巡視を行っているせいも大きい。

「・・・結構大きいな」
気持ちはありがたいので是非ご相伴に預かりたい所だが。
だが、一気に食べるには大きい。
「そうですね。努力なくして願いは叶わない、と言うことでしょう。頑張ってください」
では、と執務机に置かれ、二人は退室した。


夜。

残業もひと段落つき、そろそろ帰れるか、と言う目処が立った頃。
「む。もうこんな時間か。そう言えば食べ損なっていたな」
夜に食べるものと言われ横に置いていたが、そのまま仕事に没頭していた。
「小腹も空いたし、丁度良いかもしれんな」
と手を伸ばしかけたところ。
「ちわーっす」
「鋼の」
小さな錬金術師が現れた。

「随分遅い時間に来たな」
「おー、何か信号トラブルとかで列車遅れてさ」
災難だったぜ、とブチブチ文句を言うエドワード。
「アルフォンスは?」
「先に宿取りに行ってもらった。一冊だけ資料室で借りたい本あったからオレだけちょっと寄ったんだ」
と、先に手にしたらしい薄い本を掲げた。
「そうか。食事は取ったのかね? 私もこれから帰るから一緒にどうだ?」
「え? あー、どうしよっかな・・・ってそれなに?」
いつもは断るエドワードだが、移動に時間が掛かって食事は取れなかったらしく逡巡していたが、机の上に目を留めた。
「あぁ。恵方巻きだよ」
「へぇ。何でそんなのが執務室にあるんだよ」
さすがに伝承を調べたりしているだけあって、由来は知っているようだった。
「商店街からの差し入れでね」
「ふーん。食わないの? 今日食うもんだろ?」
知識としては知っていたようだが、実物を見るのは初めてらしく興味深そうに覗いていた。
「食べようかな、と思った時に君が来たんだよ。・・・そうだ、良かったら君食べると良い」
お互い科学者だから、正直縁起物担ぎと言う事は殆どしないが、市民の厚意が彼の願いの力になると良い、と促すと。
「え?だって大佐の分だろ?」
「軍で頂いたから食堂に未だあるだろう」
「そう?」
悪いな、と言う顔をしていたが、未だあるなら、と興味深そうな顔になった。
「恵方はあちららしい。召し上がれ」
准尉に教えて貰った恵方を示し、皿を進めた。
「じゃ、遠慮なく!」
手に取り、「太巻き」をもの珍しそうに観察したあとパクリとかぶりついた。
「目を瞑って願い事を思い浮かべて一気に食べるらしいよ」
「ん」
口に咥えたまま、閉じる金瞳。
「ん・・・むぅ・・む」
「君には大きいかもしれ・・・・・・」
自分でも大きいと思ったそのサイズは、小柄な彼には更に大きく。
からかおうと見遣ると、エドワードは黒い太巻きを両手で押さえながら頬張るように口を動かして。

「ん、んん・・・んく」

喉に痞えるのか若干涙目になりながら顔を赤くして、時々苦しそうに眉間にキュと皺を寄せる。

「・・・・・・・・・・・・」

一生懸命に貪り食う姿に何だか目が離せなくなって。

「・・・・・・・・・・・・」
「んふ、・・・ん、っはぁ!」

結構な勢いで食べた少年が安堵の息を吐き出した。

「はーーーっ、苦しかった! でも何か願いが叶う気がするな!」
「・・・そうだな」

ニパっと笑うエドワードに、ロイは何だか非常に罪悪感を感じてしまった。


その後、「何か胃が活性化してきた!」と珍しく食事に付き合うと言って2人で赴いたレストラン。
何だか少年の口許ばかりが気になって仕方がなかったロイであった。


2009/02/07日記

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節分ネタ。

縁起物なのに品が無くてすみませんorz

2009/04/26