「あっ!期間限定セット!」 時々通るケーキ屋さんの前。 開店一周年記念でどれでも5つで1000センズ!のポスターが貼られていた。 1つ250〜300センズ位するのでかなりお得だ。 国家錬金術師の高額な研究費があると言っても、年中旅暮らしは出費がかさむ。 元々質素な暮らしを好むが、それでもなるべく無駄遣いをしないように心掛けているのだ。 だからいつもはショーウィンドウの色とりどりのケーキを見るに留まるだけなのだが。 「うーん・・・せっかく安いし買うなら今のタイミングだよなぁ・・・」} 次に来た頃にはこのセットは終了しているだろう。 「あー・・・でもなぁ・・・」 買って帰っても、弟と分けられる訳ではない。 アルフォンスの事だから、気にせず食べろ、とか、食事を抜きがちな自分が必要以上の食物に興味を持った事に喜んでくれるだろうが。 「・・・」 やはり。 罪悪感を感じる。 「ヤメヤメ、これなら本の一冊でも買った方が、」 「お得なセットだな」 「!」 店の前できびすを返そうとした所で、頭上から聞き慣れた声が聞こえた。 「うわぁ!」 「やぁ鋼の」 案の定、真後ろにイヤミな位爽やかな笑みを浮かべた、黒髪の上官が立っていた。 「旨そうだな」 ロイが人の肩越しにショーウィンドウのケーキを覗き込んできた。 「お得だし買って帰れば?」 検分を始めた肩越しにある顔を押しのけて、店を離れようとした。 が。 「まぁ待ちたまえ」 「ふぎゃ!」 コートのフードをグイと引っ張られた。 「何すんだよっ!」 「君も一緒に選んでくれ」 ズルズルと引っ張られ、抵抗虚しくチリン、と軽快なドアベルの音と共に店内に足を踏み入れていた。 「何でオレがっ」 「沢山あって目移りするじゃないか」 「いっそ全部買っちまえよ」 「それではセットの意味が無いじゃないか。ホラホラ、選びたまえよ」 ロイの大きな手でクリン、とショーウィンドウに頭を向けられた。 「自分で選べよっ!」 「食いしん坊の君が美味しそうだな、と思ったもので良いよ」 ロイはヒラヒラと手を振り、私はコーヒー豆が切れていたので物色しているよ、と店の角のコーナーに行ってしまった。 「アイツめ、何処まで怠慢なんだ!」 文句を言いながらも、視線はやはりケーキに行き。 「っしょーがねぇな」 可愛らしいデコレーションのケーキを選び始めた。 「オラ、買ってきたぞ!」 「ありがとう」 気付けば勝手に店を出ていた男はすぐ先のベンチで優雅に(と言ってもスタンドの紙コップだが)コーヒーを飲んでいた。 「ケーキ代と、紅茶をどうぞ」 と紙幣と共に自分の分も買ってくれたらしいコップを渡してきた。 「どーも」 迷って、隣に腰を下ろした。 「何を買ってきてくれたんだい?」 「あぁ、アンタ甘いのより・・・って何で今開けてるんだよ」 隣の男は早速箱を開いていた。 「待ちきれないじゃないか。それに説明してくれたまえよ」 「アンタがさっさとどっか行くから種類が分かんねーんだろーが!」 ちゃんと店には各ケーキの説明が付いていた。 「そうだったかな?」 「そうだよ!ったくしょーがねーなー・・・」 首を傾げる男に、1つ溜め息をついて、箱の中身の説明を始めた。 「これがブルーベリーレアチーズで、こっちがシャンパンストロベリー。アンタ甘いのあんま得意じゃないんだろ?だからフルーツ系を選んでみたんだけどさ。で、こっちがレモンタルトで・・・」 説明をしているとロイが無言な事に気付いた。 「おい、ちゃんと聞いて・・・」 顔をあげると、ロイが楽しそうに笑っていた。 「な、なんだよ」 「・・・いや、聞いているから続けてくれ」 ゆったりと言われて、何だか落ち着かなくなり、慌ててケーキの説明を再開した。 「ふむ、どれも旨そうだな」 「オレが選んだんだから当たり前だろっ」 ふんぞり返って、貰った紅茶を一口啜った。 「この中で君のオススメは?」 箱を覗き込んだロイに。 「うーー・・・ん、どれも捨てがたいけど・・・」 沢山ある種類の中から5つを悩んで厳選したのだ。その中で更に、となるとどれも甲乙つけがたい。 「やっぱこれかな?」 「これ?」 「オレンジショコラ」 オレンジとチョコレートムースの絶妙な組み合わせ。旨いに違いない。 「確かに美味しそうだな」 「だろ」 ロイの感想にニッと笑った。 それにしても色々なケーキを近くで見たせいか、やはり期間限定セットが気になってきてしまった。 やはり買うべきか、と悩んでいると。 「鋼の」 「んぁ?っむ?」 呼ばれて振り返ると、口の中に何かが押し込まれた。 柑橘類の甘酸っぱさと、甘い香りを放つ、柔らかなチョコレート。 「フォッ!フォイ、ヒョヘ・・・」 「ちゃんと食べてから口を開きたまえよ」 「な、なんで、」 ゴクン、と飲み込んだそれは、先ほど選んだオレンジショコラ。 「選んで貰ったお礼に」 そう言ってロイは笑ってコクリとコーヒーを一口飲んだ。 「もう少し食べないか?」 「なんで!」 アンタが自分用に買ったんだろーが、と言うと。 「そんなに量は食べられないんだ」 飄々とそんな事を言う男。 「ならセット買うなよ!」 「沢山の種類を少しずつ味わうのが贅沢で私にピッタリだとは思わないかね?そう言う訳でそれぞれ半分ずつ食べてくれ」 言うが早いか、手で適当な大きさに器用に割っていった。 「ちょ、せっかく綺麗なデコレーションが勿体無いだろ!」 「先ほど充分見させて貰ったし、君も店先で充分見ていただろう。ほら」 ヒョイと半分になったケーキを渡され。反射的に受け取りつつも選ぶ前の、店の外から見ていた時も見られていた事を悟った。 あー、もう。 「・・・ちっ、しょーがねーから手伝ってやるよ」 「それは助かるね」 手にしていた半分のフランボワーズのケーキにパクつくと。 ロイが柔らかく笑った。
2009/04/11携帯日記
********************************************************************************** セット価格に負けて買って帰ったのは私です(笑)。
2009/08/30