鏡。




「アンタってあんま爆笑とかしないよな」
「・・・藪から棒に何だね」

執務室で報告書のやり取りをしている時に唐突に子供が言った。

「や、何となく。嫌味な笑いしかしねぇなぁ、って」
「失礼だな」
子供は言動も失礼だが、行動も行儀悪く執務机に凭れ掛かって不思議そうに見上げる。
大きな金瞳は猫に見上げられている気分になる。
性格も野良猫のようだが。
「君だって私には仏頂面ばかりではないか」
「アンタ程じゃねぇよ」
確かに、表情の変化の多い子供ではあるな、とロイは思った。
「私の笑顔は素敵なお嬢さん専用だからね」
「うっわ・・・」
また変な事言い出したよこのオッサン、と言う目で見られ内心てヒクリとする。
「ほら、そう言う顔を君が向けて来るから私もそれ相応の表情になると言うものさ」
「人のせいにすんのかよ」
「人の顔は自分を写す鏡だと言うだろう? 笑えば相手も笑って返すものさ」
「どうだか」
その心理学理論は聞いた事があるのか、納得したような顔をしたような、だがイマイチ納得行かない表情をする子供。

「・・・じゃあさ、どっちか先に本懐を遂げたら遅れた方は超笑顔で褒め称える、ってのはどう?」
「は?」

思いついたように提案してくる子供。
「キモイ事しなくて済むようにぜってぇ負けねぇし!」
「私は構わないが、君は果たして私に対して極上の笑顔なんて作れるのかね?」
―――自分に対して満面の笑みの鋼の錬金術師。
今の所想像出来ない。
・・・割と長い付き合いでその想定もどうかと思うが。
「だから負けねー、っつってんだろ」
むぅ、と頬を膨らます。
こういう素直な顔は良く見せてくれるけれど、笑顔は少ないな。
勝負の賞品とは言え、彼の極上の笑顔を見てみたい気になった。

「そうかね。では賭けようか」
「よっしゃ。キモイ顔拝んでやるぜ!」
「君ね・・・。まぁ勝つのは私だがね」
済まして言えば、ムキになる。
「へっ、どうだか」
「よし、勝負の暁には写真も撮ろうじゃないか」
「え〜〜〜」
嫌そうにする子供。
「おや、自信が無いかな?」
「んな訳あるか」
グッ、と拳を握り締めて。

「・・・では、いざ尋常に」
「勝負!」


人の表情は己の鏡。
君が笑う時は私も笑おう。
私が笑う時は君も笑って欲しい。


 

 



 

 

 

 

 

2008/11/16日記

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相手の表情は自身の鏡、と言う話を心理学で習ったんですが、
誰の弁かを忘れました・・・。

2009/02/01