★ shallow sleep ★
「大佐!」
「おや、鋼の。もう動いて平気なのかね?」
「おう。オレは別に」
エドワードはヒラヒラと手を振って大丈夫だとアピールする。鉄筋が貫通した左腕は幸いにも神経などは傷つけておらず、完治はしていないが、あとは傷が塞がるのを待つばかりで動くことは問題ない。
「アンタは? 目の調子は?」
「この通りだ」
失明したロイは、マルコーの持っていた賢者の石によって光を取り戻した。
そのことについて色々と考えた事や話してみたい事もあるが、―――考えて考え抜いて、きっと彼の想いがあって使った事だろう。口に出さないが、深い想いを持った男だ。そこについては触れなかった。そしてロイも口にしなかった。
ちゃんと見えていると言うアピールなのか、ロイは細々と書かれた書類を掲げた。
「早速書類仕事なのな。手は?」
ロイも大総統の剣に貫かれて重傷を負った筈だ。
「ついでにドクターマルコーに治して貰ったよ」
「ふぅん」
「アルフォンスは?」
「未だ動くには車椅子が必要だけど、元気」
弟の心配をしてくれた事に、素直に応えると、
「そうか」
良かった、と、ロイが笑った。目が見えなくなっていた彼は、アルフォンスが戻って来た瞬間を見ていない。
「正直しばらくヒマが出来ないが、時間を作って見舞いに行くよ」
「おう。サンキュ」
会話中書きかけていた書類が終わったのか、ようやっとロイがギシリと椅子の背に凭れて顔を上げた。
ロイの背後は、東方司令部で見慣れていた大きな窓もなく書棚ばかりだ。以前訪れた事のあるとは言え、部屋の主と言う意味ではヒューズのこの部屋にロイがいる事は違和感がある筈なのに、どこか懐かしさと、この部屋に来ていた時は大概ロイも一緒に居たからか、どちらかと言うと物足りなさを憶えた。
「…」
彼はこの部屋についても何も言わない。
でも、『あの時』の表情は無くなっているから、大丈夫だろう。
「今日はどうした?」
「ん。―――・・・これ、返しておこうと思って」
ポケットから銀時計を取り出す。
もう、錬金術は使えない。
5年前にロイから叱咤されて示された道。4年前、同じく彼から拝命書と銀時計を受け取って生まれた『鋼の錬金術師』。
傷だらけの、長い旅路を共にした『戦友』との決別、だ。
「・・・そうか」
ロイが席から立ち上がった。ゆっくりと近寄りそして右手を出す。少し迷って、手袋をしていない右手で、ロイの右手にそれを乗せた。シャラリ、と遅れて鎖の音が小さく響く。
「・・・―――右手との等価交換、か」
乗せた右手と乗せられた銀時計、ロイの視線が、近くにあるのにまるで懐かしむように遠くを見るように、これまでの旅路を見るように、動いた。
「おう。本懐を遂げたろ? ・・・オレの方が早かったな」
静かな部屋に耐えられず、ニヤリと笑う。
「なに、すぐさ」
「やせ我慢言っちまって。悔しい癖に」
涼しい顔をするロイにそう言うと、彼はヤレヤレと肩をすくめた。
「大総統になった暁には、法令で豆は発言出来ないようにしてやろうか」
ははははは、とムカつく笑いをされる。
「んだと!」
「背が伸びれば豆じゃなくなるだろう? 今度は君の身長が伸びるか私が先に大総統になるか、かな。まぁ君は長く掛かるだろうな」
右手を指される。
「機械鎧なくなったから、これからグングン伸びて大佐なんかあっと言う間に追い越してやるよ!」
「それは楽しみだ」
ロイがクックと笑う。
「・・・」
その様子を見て、エドワードはきゅと、両手を握り締めた。
「―――大佐」
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2011年3月春コミ発行予定から5月スパコミ発行。
約束の日を終え、再び旅をするエドと、軍部でこの先の未来の為に動くロイ。
お互いの道を目指しそれぞれ遠くにいた筈だったのに、
ある日突然ロイはエドの前に姿を現す。だがロイは不思議な姿で現れていて…。
原作終了後の少し未来のお話。
少しシリアステイストです。
震災前に書いていたお話で、発行を少し迷ったりもしました。
震災後に裏表紙の笑顔のエドを描き足しました。