19、機械鎧


パラリ。

執務室のソファで今日も金髪の錬金術師が読書に没頭している。
しばし眺めて。
革張りの椅子から立ち上がって近付く。
様子を伺い見る。
琥珀の瞳が左から右へ。
気付く気配はない。
隣に腰掛けて表情を覗いてみる。
時折、金色の睫毛を瞬かせて琥珀は上から下へ。

フム。

おもむろに身体を傾けた。

が。

「おい、コラ・・・。」
「何故避ける。」
「避けるわ。」
「今まで気付かなかった癖に。」
「視界にその無能ヅラが入れば、イヤでも気付くわ。」
「君ね・・・。仮にも恋人に向かって酷くないか?」

そう。
本に集中しているのを良い事に、
太もも目掛けてゆっくりとダイブした。
所謂、膝枕が目的だ。

が、

すんでの所で逃げられた。
猫のようだ。

「誰が恋人だ!」
「君と私以外誰がいる。」
「恋人になった覚えはねぇ!」
「好きだと言ったじゃないか。」
「好きだと聞いただけだ!」


先日、悶々としていたこの恋心を
目の前の少年に告げたばかり。
嫌悪されるかと思ったが、最初は胡散臭いものを見る
目付きではあったが、彼の大らか(または大雑把)な性格か、
律儀さからか、只の長男気質か拒絶されるでもなく、
聞き入れられた。
受け入れられた訳ではないけれど。

こちらとしては、玉砕覚悟だったものだから、
この結果は上々で、だったら、口説き落とそうと決めたのだ。
折を見ては、やれ食事だ希少文献だ甘い言葉だ、と
色々な事を実践している。
その度に呆れたような目で見られるけれど。
露骨に嫌がる事はしなかったし、彼自身も流していた。
別の意味で流されて欲しい所だが。
とどのつまりはアプローチが流されるので、
再度口説いて、と堂々回りの繰り返しとなる。

「だーーー! 邪魔だ、あっちいけ!」
「ここは私の執務室なんだが?」
「じゃーオレが出る!」
「その本は私の私物なんだが?」
「どうでも良いから、こっちに来るんじゃねぇ!」

そんな中でも、シツコク太ももを狙っては
鋼のチョップ攻撃が降ってくる。
それを戦場で鍛えた勘で全部交わしつつ。
ここに有能な副官が居たら、
「そんな無駄な事に生きる為の勘を使用しないで下さい。」と銃口を向けられただろう。

「だって、君。その太ももは触りたくなるだろう。」
「変態みたいな事言ってるんじゃねぇ!」
「君に限定して変態、と言うのは甘んじて受けよう。」
「甘んじるな!」
「だから膝枕させたまえ。」
「偉そうに情けない事言うな!」
「実際偉い。」
「そうじゃねーー! 冷静に考えろ!」
「私はいつだって冷静だ。理性が飛ぶような時間を君と過ごしたいがね。」
「アホぬかせ!」

本当は、そこまで膝枕に固執している訳では無いのだが
(いや、して貰えるなら嬉しいが)、
反応の良さにいつもちょっかいを過剰に出したくなるのは
仕方のない事だろう。
彼の小柄な錬金術師はムキー!と言った表情で
ソファの上を逃げながら、今度は蹴りを繰り出してくる。

ム。

さすがだ、鋼の。
無理な体勢でも足技とは。
だが、こちらとて軍隊格闘のエキスパート。
それをまた交わしつつ、追い詰める。

「だから寄るんじゃねぇ! この無能!」
「聞き捨てならないな。私は有能だよ、証拠に君の膝枕を手に入れる。」
「アホな事言ってんじゃねー!・・・っあ!」

狭いソファの上を後ずさっていた金色の錬金術師は。
見えぬまま、斜めに進んでいた為、
後ろ手に進んだその先が空を切った。

「隙あり!」
「うわっ!」

バランスを崩した少年を助けつつ細腰にしがみ付く様に
彼の太もも目掛けて頭を降ろした。

そして。

ゴッ!
   

盛大な音が鳴り響いた。



「オイ・・・・。」
「・・・。」
「アンタ、バカだろ・・・。」
「・・・。」

丸まってもんどりうっている私に、
落ちかけた、斜めの体勢の子供から、
思いきり呆れた、と言うかむしろ憐れみの視線が向けられているのが分かる。

「だから冷静になれ、っつったのに。」
「・・・。」

乾いた溜め息が頭上を通過する。
変なモノから遠ざかろう、とするかのように立ち上がったらしい。
冷たい・・・。
そう、彼の片足が機械鎧な事をドサクサで失念していた。
通常でも思いきり頭を落とせばダメージがある所に、
落ちかけた彼を引き寄せた勢いもあった為、
強かに頭を打ち付けた。

「機械鎧で膝枕も何もねぇだろ。」
「・・・気持ちの問題だ。」

お、喋った、と言う具合に、こちらを覗き込む気配。

「擦れて禿げるぞ。」
「うるさい。」


禿げるとは何だ。
結構裏でハボック辺りに言われたりしているから、
気にしているんだぞ。
えぇい、ハボックめ。後で嫌がらせしてやる。決めた。
八つ当たりも甚だしい、と叫び声が聞こえてきそうな思考をしながら
ノロノロと緩慢な動きで起き上がろうとした。
すると、
頭を攫う、温度の違う手。

「はぁー。ったく仕方ねぇなー。見せてみろよ。」

そう言って。

先程までと反対側に引っ張られ、
彼の右足に頭を乗せられた。

「どうしても少しは当たるんだから、ソレは我慢しろよ。」

それでも気にしてか、彼の腹部に近いほうに、
頭を寄せられる。
する、と左手が髪を梳いて。

「うっわ、コブになってんぞ。
 禿げるな、コレ。」
「禿げ禿げ連発しないでくれたまえよ。」
「はーげはーげ。」
「君ね・・・。」

そう言いながら、柔らかく撫でてくれる。

「暖かいな、君は。」
「は? 何言ってんだ。
 どーでも良いけど寝るんじゃねぇぞ。」

照れたような声に、ふと微笑って、
最初の目論みとは別に手に入れた
優しい休息の一時に目を閉じた。


 



*************************************************************
機械鎧タイトル無理矢理でスイマセン。
ロイ→エドが好きなので、
エドの事になると、ムダに大人気なくて、ムキになる増田さんが良いです。
エドさんは仕方ねぇな、スタンスで。
むしろ親の心境ぐらいで(笑)。
「あ〜、昔アルと良く母さんの膝の取り合いしたなー。」
位しか思ってないかも(あ)。

⇒微妙なオマケ。

2006.10.15